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「あの頃あいつはまだいまの夏樹くらいだったかな。だから当時は子供の戯れだと思っていた。けど、結婚しようといってからその約束のことを持ち出されたら、もう本気だろう? 本気でそのいつかがきたら、あいつは私を見送るつもりだ。ずっと一緒にというのは、最後の瞬間までという意味なんだ。そう思ったら……」
つい、感極まってしまった。いつも一人で生き残って、見送るばかりで、つらい思いばかりしてきた夏乃を、自分が長生きして見送るのだと彼はいった。それは、最期まで独りにしないという意味だ。それが夏乃にとってどれだけ嬉しかったことか。
だから夏乃は、莉櫻となら結婚してもいいと思った。長いときを誰かと歩むなら、彼とがいいと思ったのだ。
そんなことまで由香に話しはしないが、彼女は勝手に悟ったらしい。
「冬だっていうのに、熱いな」
茶化すような由香の言葉に、なんとでもいえと夏乃は返した。
そんなときだった、控えめなノック音が鳴り響く。
そして入ってきたのは、美緒と愛利。そして夏乃の見知らぬ少女が一人だ。先頭の美緒が、あの、と口火を切った。
「夏乃さん。莉櫻さんと結婚したって本当ですか」
聞かれたので、そうだと答える。すると美緒は頬を赤くして、うつむきがちにもごもごという。
「あの、その……異性の弟子とうまくいく方法って……」
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