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ああ、と、夏乃は思い出した。この杉野美緒も確か、弟子を好いてしまっていたのだった。そのくせ男嫌いでおそらく恋愛経験は皆無。好いたはいいがこの先どうしたらいいのか、自分の弟子と籍まで入れた夏乃に聞きにきたのだろう。
「恋愛相談、ということでいいのか? 後ろの二人も?」
もう一人の少女は知らないが、愛利のことなら知っている。彼女は夏乃が満足に動けない間世話係としてそばにいてくれた医療班だ。
実はそれ以前にも、一度会っている。
協力者の大野に誘われて医療ものの映画を観に行った日、夏乃は映画館の女子トイレで、穏やかではない電話をする愛利を見つけた。手を洗うふりをして聞き耳を立て、その会話から夏樹が危ないと察して、夏乃は地下駐車場へと走ったのだ。
愛利もあのときのことを覚えていたようで、支部の五階で顔を合わせるなり、あのときは夏樹くんを助けてくださってありがとうございましたと馬鹿丁寧に頭を下げてきた。
そして夏樹と付き合っていることも明かしてくれて、彼女は夏乃の病床で初々しい恋愛話を聞かせてくれた。せまい部屋の中、退屈で仕方なかった夏乃にとって、弟子が育てたそのまた弟子の恋愛話はいい刺激になったものだ。
こういうときはどうしたらいいのかと相談されれば、元ホステスとしての知識を総動員してこうすればいいと提案をした。
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