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問いかけると、図星だったようだ。美緒はなんでわかるのかというような顔をした。
「わかるさ。私がそうだったもの」
男を惚れさせる手練手管は知っているし身に着けている夏乃だが、莉櫻にそれを仕掛けたことはなかったつもりだ。なにより弟子と色恋沙汰になるなんて面倒なだけだと思っていたから、ほとんど色気の欠片もない素で接していた。殴りもしたし蹴ったりもした。
だというのに、どういうわけか莉櫻は夏乃を好いてしまったのだ。ちょっと待て、私のどこに惚れる要素があるんだと、初めて抱かれた日は驚いた。いや、抱かれるだけでは驚かなかっただろう。年頃の少年に酔った勢いで気安くしなだれかかった自分の不注意だと、冷静に受け止めるところだ。しかしその最中に、愛しているといわれて驚いたのだ。
なにも、異性として見られるようなことはしていないつもりだった。だからこそどうしてと思わないではなかったが、莉櫻があまりにも愛を囁くものだから、その疑問ごと夏乃は流されてしまった。
元々、莉櫻のことを可愛い弟分という意味で好ましく思っていたのだ。異性として好きだといわれて意識してしまったら、自分も彼を異性として好ましいと思ってしまった。
夏乃が彼を異性として意識するようになってしまったのはその後からだが、莉櫻がいつから夏乃をそういう目で見ていたのか、六年前までは夏乃も不思議でならなかった。
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