熱い冬

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「好かれるようなことをした覚えがないのに、どうして好きになったのだと、私は昨日莉櫻に聞いた。そうしたらあいつはこういったんだよ。ずっと昔、莉櫻をかばって私が傷ついたことがあった。その一件が申し訳なくて、同時に身を挺して自分を守った私に恩を感じていた。最初の師匠にも見限られた独りぼっちの自分を傷を負ってでも守ってくれたことが、とても嬉しかったのだと」  それは夏乃が莉櫻との師弟関係を築いてから、そう月日がたっていない頃の話だ。そんな昔のことがきっかけで莉櫻は夏乃を意識し始めたのかと思うと、彼は心配になるほど一途な男だ。 「私としてはかすり傷だったし、まさかそんなことで変に意識されるなんて思ってもいなかった。でも当時の莉櫻には、自分をかばってくれる存在が近くにいることが余程嬉しかったんだろう。なにがきっかけで好かれるかなんてわからないものさ」  たとえ師匠として当然のことをしたまでであっても、そのときの相手の心境次第で恋心が芽生えることもある。  こちらとしては好かれようという意図でしているわけではないから、身に覚えのない好意を弟子から寄せられている状態になるわけだ。美緒の場合、身に覚えがないから秋時からの好意に気づいてもいない。  そう指摘すると、美緒はそういうものでしょうかと考える素振りを見せた。そういうものだと笑ってから、夏乃はつづける。
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