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こんなのが来週からとはいえ復帰。大丈夫かと疑ってしまうのは、夏樹だけではなかった。
「犬は、冬でも元気なものだと思ってましたが?」
棘のある口調でいったのは道冬だ。その言葉に、犬井秋時は誰が犬だといい返した。返事をしてしまっている時点で犬だと認めたようなものだが、それはいわないことにした。
「走れないほど、まだ痛みますか」
先程よりは角の取れた口調で、道冬が尋ねる。
秋時の怪我の半分は彼のせいだ。生意気なふりをしていても、やっぱり気になるのだろう。
そこに気づかないほど秋時も鈍くはなく、彼はいいやと首を振った。
「走れるさ。おまえに心配されるほど弱くねえぞ」
そんな風に返されて、道冬の表情が少しだけゆるむ。本を読んでいるふりをしながらそれを横目で捉えたのか、弟子の表情を見た怜の目元もふと優しくなった。
外は寒いが室内温度は快適そのもので、穏やかな午後の時間が流れていた。
そこにノック音が割り込んできたかと思えば、ぱっとドアが開いて廊下の寒い空気が雪崩れ込んでくる。身震いした秋時の横で、夏樹はあ、と声を上げた。
「莉櫻と夏乃さん」
昨日六年越しの再会を果たして支部を出たあと街に消えていった二人が、装いも新たにそろって実行部の部屋に入ってきたのだ。
先に入ってきた莉櫻の上着は、いつもの仮鬼憑きの印で染めた戦闘服ではなく、私服の黒いコートだった。
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