熱い冬

8/22
前へ
/204ページ
次へ
 懐かしむように微笑む怜に、莉櫻も嬉しそうにだろ? と笑った。  神原、もとい荒井夏乃という人物の内面が、より一層謎に包まれた昼下がりであった。  夏乃と莉櫻の結婚報告は、瞬く間に支部内に広まった。  昨日再会しての今日ということで、聞いた人ほとんど全員が驚いた。しかし六年前までの二人を知る者の中には、ようやくかと破顔一笑してくれる人もいた。それが由香だ。 「おめでとう夏乃」 「驚かないのか、由香」  技術開発部部長の部屋で、夏乃は長テーブルをはさんで由香と向き合った。白衣の技術開発部部長は、おかしそうに微笑む。 「そりゃ驚いているよ。莉櫻はともかく、おまえはもっと思慮深いと思っていたから。まさか交際ゼロ日で結婚とは、感電死ものの電撃婚だな」 「……一晩だ」  訂正すると、由香がぷっと吹き出した。 「いったいなにをされたんだ?」 「デリカシーのないやつめ」  それについて話す気はないし、気位の高い夏乃がそんなことを話すとは、由香も本気では思っていないだろう。 「で、プロポーズの言葉はなんだったんだ?」  おもしろがっているが、どうやら聞きたかった本命はそれらしい。由香の体勢がやや前のめりになった。  夏乃は唇を歪める。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

64人が本棚に入れています
本棚に追加