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懐かしむように微笑む怜に、莉櫻も嬉しそうにだろ? と笑った。
神原、もとい荒井夏乃という人物の内面が、より一層謎に包まれた昼下がりであった。
夏乃と莉櫻の結婚報告は、瞬く間に支部内に広まった。
昨日再会しての今日ということで、聞いた人ほとんど全員が驚いた。しかし六年前までの二人を知る者の中には、ようやくかと破顔一笑してくれる人もいた。それが由香だ。
「おめでとう夏乃」
「驚かないのか、由香」
技術開発部部長の部屋で、夏乃は長テーブルをはさんで由香と向き合った。白衣の技術開発部部長は、おかしそうに微笑む。
「そりゃ驚いているよ。莉櫻はともかく、おまえはもっと思慮深いと思っていたから。まさか交際ゼロ日で結婚とは、感電死ものの電撃婚だな」
「……一晩だ」
訂正すると、由香がぷっと吹き出した。
「いったいなにをされたんだ?」
「デリカシーのないやつめ」
それについて話す気はないし、気位の高い夏乃がそんなことを話すとは、由香も本気では思っていないだろう。
「で、プロポーズの言葉はなんだったんだ?」
おもしろがっているが、どうやら聞きたかった本命はそれらしい。由香の体勢がやや前のめりになった。
夏乃は唇を歪める。
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