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「六年もほうっておいたせいだろう。昨夜はあまりにもどこにも行くなと、ずっと一緒にいてくれとうるさかったからな。それではまるでプロポーズみたいだぞとツッコミを入れたんだ。そうしたらあいつきょとんとして」
その空白の中で思いついたように、彼はぱあっと顔を輝かせていったのだ。
――そうだ夏乃、結婚しよう!
「――って」
「よく承諾したな。いわれて思いついたみたいな告白じゃないか」
由香にいわれて、夏乃は苦笑した。
「さすがに呆れたよ」
でも、と、夏乃は昨日のことを思い出す。
「莉櫻はその意味をわかっていない子供でもないし、昔の約束を覚えていてくれたから」
「約束?」
それは師弟だった頃の、夏乃の愚痴から生まれた約束だった。
いつもいつも、夏乃は見送る側だった。
もう見送るのは嫌だ。だからせめて、せいぜいおまえは長生きするんだなと、ある日夏乃は皮肉っぽく莉櫻にいったのだ。
それに莉櫻は、馬鹿真面目にこう約束してくれた。
――見送るのが嫌なら、俺は夏乃より長生きする。そしていつか、俺が夏乃を見送るから。
その約束を由香に話して聞かせると、彼女は納得顔になった。
夏乃は苦笑する。
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