縁結びの神様

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 京都府京都市左京区(さきょうく)にあるこの吉田(よしだ)キャンパスは、田舎から出てきた私にとっては余りにも広大すぎて、いつも大切なものを見失っていた。  それは講義室の場所だったり、順調に書き始めたはずのレポートの着地点だったり、これから進むべき道であったり、大好きな先輩の姿だったり。  ふわりと揺れる短い黒髪に、すらりとした細い体躯。足元で光るスカイブルーのランニングシューズを目印に、私は彼の姿を追い求める。しかし、どうしてかいつも彼は闇に紛れるかの如くその姿を雑踏へと隠してしまうのだ。  私の通う大学には「推理小説研究会」という名の倶楽部がある。いわゆる「ミス研」というもので、毎週金曜日の夕方に開かれる例会では、推理小説を用いた読書会や犯人当てゲームなどを行っている。  入部当初、友達の一人もいなかった私に初めて声をかけてくれたのが、一つ年上の先輩である今宮(いまみや)(なお)という人物であった。  彼には幾らかの噂があった。  総合人間学部三年ではあるが、随分と前から三年生だとか、別学部の講義でさえ気が付けば隅っこに鎮座しているだとか、あらゆる倶楽部に所属しているだとか、複数の場所に同時に現れるだとか、実は人に化けたきつねなのだとか。 それは、彼が如何に神出鬼没であり、優游涵泳で捉えどころのない人物であるのかを物語っていた。
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