大好きなひと

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 刑事さんが証言を促すと、今宮先輩は湯気の消えた湯飲みに手を伸ばした。そして疲れた喉に潤いを与えたあと、静かに口を開く。 「まず、僕らが始発電車で貴船神社を参詣したことは先に話した通りです」  その理由は、既に話した通り早朝参詣をするためであった。  彼曰く、本来ならば丑の刻に参詣するのが習わしなのだそうだが、そのような時刻に走る電車があるはずもなく、妥協的に始発電車を利用することになった。 「被害者である北野さんの死亡推定時刻は丑の刻――つまり午前一時から三時の間で、丑の刻参りの時間に一致します。なおかつ、周囲の状況から現場で殺害されたことで間違いないともなれば、必然的にある疑問が浮上するんです」  その言葉を聞いて私はようやく彼の言葉の意味を理解した。同時に、刑事さんは先程までの怪訝な表情をほどき、全てを悟ったかのように鋭い閃光の目を細める。 「なるほど、確かにそれは盲点やな」  先輩はくすりと微笑み返し、私を一瞥すると状況を整理するために再び言葉を紡ぎ始めた。
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