大好きなひと

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 庁舎の外は変わらず雨が降り続いていた。時刻は十八時半を回り、いよいよ陽が沈もうとしている時間帯である。とはいえど、長雨をもたらす分厚い雨雲のせいで、外界は既に夜にもほど近い。 「紫野ちゃん、付き合ってくれてありがとう」  今宮先輩はスカイブルーの傘を開く。 「いえ、寧ろ誘ってくださってありがとうございます。実は私、折角先輩と二人で出掛けられたのにあんなことになってしもて、ちょっとへこんでたんです。でも、今日お会いできて少し元気がでました」 「そっか、ほなよかった。そやけど、後味の悪い話聞かせてしもてごめんな」  申し訳なさそうに眉を下げながら紡がれる言葉に、私は大きく首を横に振った。  確かに話の内容は決して心地の良いものではなかったが、名探偵にも匹敵するであろう先輩のキレのある推理を間近で拝むことができたのだ。マイナスの感情以上に得たものはあると、私は心の中で合掌した。 「実を言うと、僕もあの日のことは少し気になってたんや。結社にも行けへんかったし、せっかく紫野ちゃんとのデートやったのに台無しになってしもたしね」  そう、彼は雨音の中で苦笑を零しながらさらりと告げる。その瞬間、私は自身の頭に内蔵された録音テープを一時停止させた。  巻き戻し、そして再生。  デート?  先輩の澄んだ低めの声で囁かれた予想外の単語に、私は狼狽した。  大変失礼な話ではあるが、先輩は人との繋がりにはあまり興味のない浮世離れした人間で、況してや他人に対して恋愛感情を抱くことなどないものだと感じていた。しかしそれも私の思い込みで、私が想像していた以上に彼は温かい心を持った人なのかもしれない。 「結構暗なってきてるし、紫野ちゃんが嫌やなかったら家まで送らせて」  そんな私の勝手なイメージを溶かすように、先輩は柔らかく破顔する。 「……でも、ここからちょっと遠いですよ?」 「うん、大丈夫。むしろ遠い方がゆっくり話できてええわ」  優しく撫でるような声で紡がれた言葉に、私よりも随分と背の高い先輩を見上げた時、庁舎から零れる光が頭上に広がるスカイブルーの傘を照らし出し、鮮やかな青空を作り上げた。
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