水辺に潜む

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 記憶を辿るように、今宮先輩は私の数歩先に立ち、奥宮へと続く道を北へと進んでいく。三社詣の順序で回るため仕方のないことではあるが、同じ筋書きをなぞっているようで妙な不快感を覚えてしまう。  そんな私の心情を察してなのか、彼は現場でもある砂利の参道を避け、並走する車道を選択した。  前回は辿り着くことの出来なかった奥宮の神門を通り、境内に入ると肌に触れる空気がひんやりと冷たくなった。それはここが如何に霊験あらたかな場所であるのかを物語っているようであった。  水を司る神様・闇龗神(くらおかみのかみ)を祀る奥宮の本殿の下には、大地の気が溢れる龍穴があるそうだ。それは決して人目に触れてはならない神聖なもので、強力なパワースポットとしても知られている。  そんな荘厳な場所で、あの忌々しい呪術儀式が今日に至るまで何度も繰り返し行われてきたのだと思うと、とんでもなく恐ろしいことのように感じられる。  しかし、そんな場所であるからこそ、藁にも縋る気持ちで願いを託しにやってくるのだろう。それが、誰かの不幸を願うものであったとしても。  私たちは素朴な造りの広い境内をぐるりと歩き、本殿の前で祈りごとを唱えたあと、元来た車道へと戻る。  途端、何かの結界を跨いだかのように先程までは気に留めていなかった貴船川の水音が轟轟と騒がしく響き渡った。流れる水は茶色く濁り、全てを飲み込んでしまいそうなほどの激流を形成している。  その映像に吸い込まれるように、今宮先輩は川辺へと近づいていく。そして、丁度ガードレールの切れる位置まで歩くと、彼は再び足を止めた。 「実は紫野ちゃんに言うておきたいことがあるねん」  目の前の濁流に視線を落としたまま、静かに告げた。 「それって、今日ここに来た本当の理由ですか?」  私の問いかけに、彼はくすりと笑う。 「やっぱり分かってて着いてきてくれたんやね。ありがとう。……先週の水曜日に太田刑事に話したことは憶えてる?」 「はい」 「あれから調査してくれはったみたいで、一昨日の夜に刑事さんにから結果を聞いたんやけど」  そう、彼は記憶を想起しながらゆっくりと話し始めた。
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