水辺に潜む

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 刑事さんより聞かされたのは、先輩の推理通り、第三者の存在が明らかになったということ。その人物が、亡くなった二人の女性と同時に関係を結んでいたということ。そして、あの殺人事件は彼によって仕込まれたものであったということだった。  警察は先輩の推理が正しいという前提で調査を進め、広範囲に渡る防犯カメラの記録から第三者の特定に至ったそうだ。  その人物の名は西院(さい)京平(きょうへい)。二十代半ばで起業し、眉目秀麗で鬼才の若手社長として一部の業界で名を馳せる人物であった。  とても華やかで色のある人生を歩んできた彼は、常に輝きを纏っていた。ただ、それも見かけ上の話。ここ数年間の会社の経営状態は右肩下がりで、見た目ほど芳しくはなかった。  しかし、一度手に入れた輝きを捨てられなかった彼は上辺ばかりを塗り固め、当然のように襲う皺寄せが会社の経営を更に苦しめることとなる。それでも彼は飾ることをやめなかった。  じわじわと絞殺されていくように、自身の蒔いた種によって苦しめられ続けたのだ。  そんな時に彼の前に現れたのが、「北野ゆき」という人物である。  当時、彼女は両親を事故で亡くしたばかりであった。その哀しみを埋めるように、優しく笑いかけてくれる西院に、彼女は徐々に惹かれていく。  そしていつからか、彼女は両親の残した遺産を彼と会社のためにと費やすようになった。  婚約を交わした彼の言葉を純粋に受け止め、そのためには会社を立て直す必要があると信じて疑わなかったのだろう。彼の甘い言葉が偽りであったのだと、彼女は最期まで気付くことはなかった。 「壬生さんも同じように西院に利用され、資産が費えたことを理由に捨てられた。何を訴えても、彼女の声は華やかな舞台に立つ彼を匿う力で揉み消されてしまう。やから、壬生さんはその恨みを晴らすために丑の刻参りを行ったんやろね」  それが今回の事件の始まりだった。
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