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憂うつ
私は今、出窓の枠に腰をかけて座り、窓から外を眺めている。こんな姿を教育係に見られたらすごく怒られるだろうなと思った。行儀が悪いと自分でも感じるくらいなのだから。
私はよくこの場所から外を眺めている。空の景色を見ることが好きなのだ。ただ残念なことに、今の空の景色はよくない。今にも雨が降りそうな曇り空だ。
窓に雨粒が一滴、二滴。それが合図だった。サァーと音が鳴るような雨が降ってきた。私は視線を曇り空から地上に向ける。そこには道を行き交う人々がいた。その人たちが一斉に傘を差す。色とりどりの傘。簡単に言うと、茶や緑、青に紫、黒と白、黄色。そして赤。
人によっては色鮮やかかつ煌びやか見えるかもしれないが、しかし私にとっては忌むべき光景にしか過ぎない。私はこの景色を見る度に、ただただため息をついてしまう。
この国グラウクラスでは、人の階級は色によって区別され、識別される。農家や普通に働いている人は、白色。騎士や警察などの治安を担当する人は、黒系統の色。そして私たち王族は赤系統。本当はもっと細かい決まり事があるのだが、まあ、だいたいこんなもんだろう。
普段は服の襟や胸元につけているバッジの色で、その人の階級が分かるようになっている。分かるには分かるが、まあそこまで主張はしていないという感じ。
だが雨が降り、皆が傘を差すと、それは一目瞭然のものとなる。傘の色自体がその人自身の階級を示すからだ。これほど見た目で分かりやすいというものもあるまい。別に階級によって差別などがあるわけではない。ただ、その人自身の役割というものを他者に示しているだけ。農家は農家たれ。警察は警察たれ。そして王族は王族たれ――。
それが私は嫌いだった。だって考えてもみてよ? どれだけ周りからそういう目で見られるか。農家や普通に働いている人はまだいい。警察は大変だろうと思う。ちょっとでも業務をサボっていたりしたら、「人命を守るはずの警察が何をのんびりしているんだ」という目で見られたり、叱られるだろうし。
そして私たち王族。これは本当に窮屈。『ノブレスオブリージュ』を求められるからだ。貴族たる義務と責任。人民の上に立つべき品格。人民の徴収で暮らしているのだから、気持ちは分かるのだが、それでも常にそれを求められるのはほんとうにきつい。はっきり言って、息つく暇もない。誰だ、こんな言葉を作ったやつは。今からでもひっぱたたきたい。
川のように流れる傘の群れを見ながらそんなことを考えているのは、私だけだろう。本当に憂うつな気分になる。
よし、決めた。
明日は母様に言ってみよう。
「下の世界を見てみたいです。後見のためにも行かせてください」
こんな感じだろうか。今までも何度も頼んではみているが……。今度は後見のためにという言葉を入れてみることにする。なんか良さそう、うん。
これでもし無理だったら……。
私は部屋の隅に無造作に立てかけてある赤色の傘に目を向ける。
「その時は……」
うん、あれしかない。前から思いついていた方法。あんまり気は進まないけど。
「そうならないことを祈りたいけど……。まあ、無理かな……」
いや、何を勝負する前から諦めているのだ。弱気になってはいけない。あの才色兼備な母様に口論で勝たないといけないのだ。
私はシエラ・フォン・ブランネーゼ。この国の第一王女。私にだって勝てるチャンスはあるはずなのだ――。
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