白亜の城 1

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 部屋をすぐさま置いたレヴはさっそくユーリスの部屋へと向かう。ドアを叩くとぬいぐるみが扉を開けてくれたため、そのまま部屋の中へと入り込む。  部屋にある家具はレヴのものと同じで簡素な木のベッドと小さなチェストと椅子だけであった。が、ユーリスの部屋はベッドの上にごちゃごちゃといろいろなものが広げられ、床にも何かしらものが散らかっている。  ユーリスは床に散らばっているものをなにやら整理しているようだったが、レヴが来たことに気が付くと顔を上げる。 「早くない?」 「え、そう?確かに急いで来たけど……」  普通女子ならもう少し…とぐちぐちユーリスは何かを言いながらも、床にあるものをある程度壁に寄せて立ち上がる。ベッドの上にあるものも少し寄せて、レヴに椅子に座れと言うと自分はベッドの上へと座った。 「それで、何が知りたい?」 「えっと、どうしてユーリスがこの宿を選んだのかとか、あとこの宿がどうして安いのかとか…」  ユーリスはレヴの言葉に少し考えこむと、手のひらに銀貨を出す。 「レヴは貨幣の価値はわかるよね?」 「わかるよ」 「そう。じゃあ、この宿がどうして安いのかについては簡単。ここが適性価格で宿をしているからだよ。  通常の宿なら大体の相場はこれぐらいが普通だね」 「そうなんだ」  宿を泊るのは初めてだから知らなかった。と言うと、大体の宿の相場は毎日の食事代の3倍から5倍くらいだという。そこから色々と観光者向けにサービスとかいろいろとしてくれるところや、祭のやっている間などは値段をつりあげる宿もあるのだという。 「この宿には旅人以外の人たちも入っていたし、外壁の掃除はおおざっぱみたいだけどちゃんと扉とか人が良く使う箇所に関してはちゃんと修繕とかされていたようだから、相場価格で宿をやってくれそうだなって思って入っただけ」 「へぇ……ユーリスってそういうの見てるんだ。なんだか商人みたいだね」 「みたい、じゃなくて一応商人なんだけどね」 「えっ!?」  レヴが驚くとユーリスはため息をつきながら床にあるものを指さしてそれも一応商品だから、とぼやく。床に散らばる細かい金属製のものはそういえばよく見ると家具などでよく使われている部品のように思える。名前などは詳しく知らないが、恐らくそうだろう。ユーリスはベッドの上で布に包まれた小瓶などを取り出すとレヴに見えるようにそれを振る。 「これくらいはみたことあるだろう?」 「あ、ポーションだ」 「そう。これは毒消し用のやつ。他にも色々と持ってるけど……」  色とりどりのポーションに軟膏、メダルや巻物など散らばるものをレヴは興味深そうに見つめると視界の端にきらりと光るものが映る。 「ユーリス、あれは?」 「あれは…」  ひし形の薄青く光る宝石。ユーリスはそれを手に取ると、じっと見つめてレヴへ渡す。思ったよりも軽いが、ネックレスなどにつける装飾品だろうか? 「幻を一瞬だけ見せてくれる護符だね」 「幻を?」 「そう。たしかどこかの魔術師が自分が留守にするときに子どもに親がいると見せかけるように作ったとかいうやつで…」 「ユーリス、私これ欲しい」  ユーリスの説明する話を切って、レヴが言うとユーリスは少し不機嫌そうになりながら答える。 「それ、一応魔法の込められた護符だからちょっと値段が張るよ?」 「でも、私今まで魔法使ったことないから憧れるんだよね、こういうの!  ねぇねぇ、ユーリスこれ一体いくらなの?」  ユーリスに問い詰めるように近づいてその値段を聞くとこの宿の宿泊代の10日分。払えない額ではないけれど、そうなるとフォードラッセへ行くまでの間ほとんどを野宿などで過ごすしかなくなる。うっと髪が引かれる思いをしながら護符をユーリスに差し出すとため息をついてそれを受け取る。 「思考能力の低下を確認。  推奨、適度な食事と休憩」 「わかったよ、ヴァニラ」  ユーリスの返答にうさぎのぬいぐるみがぴょこりと耳の片方を伸ばす。どうやらこのぬいぐるみはヴァニラという名前らしい。レヴがまた再びヴァニラの方を見ると、ヴァニラもまた黙って見返してくる。これも魔法で作られたぬいぐるみかなんかなのだろうか? 「もうこれ以上何もないなら、僕は食事をとりに下に行くけど」 「あ、私も一緒に行く!」  暗に出てけと言おうとしたのだろうが、ユーリスに聞きたい事はまだあるのだ。ベッドから立ち上がるユーリスの後をついて、部屋から出たがぬいぐるみは出てこず、そのままユーリスは部屋に鍵をかける。なるほど。ぬいぐるみはご飯を食べないのか。  何も言わずレヴを置いて階段下の食堂へと向かうユーリスを追いかけてレヴも慌てて階段を下るのだった。  階段を下りると人々の話し声が聞こえる方へと向かう。なるほど、確かにユーリスが言っていたとおり、旅人らしくない普通の仕事終わりのような人々もあちらこちらに座って食事をしている。  さりげなく1人席に座ろうとするユーリスの手を取ると2人用の丸いテーブル席に座る。 「注文の取り方もわからないとか言わないよね?」 「まさか!ただ1人でごはん食べるより2人の方がいいかなって。あと、相談したいこともあったし」 「相談?」  ユーリスが少しだけ困ったような顔をする。が、まずは先に腹拵えをするべきだろう。横を通りかかった給仕の人に声をかける。 「すいません、水とパンとシチューをください。  ユーリスは?」 「同じもので」 「承知しました。お支払は注文前に頂くことになっているので今頂いてもよろしいですか?」 「はい。大丈夫です」 「それではお一人様7マルクになります」  給仕に銅貨屑を7個渡す。ユーリスも同じように渡すと給仕は注文を厨房に伝えに下がっていく。 「それで相談ってなに?」 「私とパーティー組まない?」  周りの人々の声にかきけされないように、ユーリスの目をみてしっかりと伝える。フォードラッセに行くまでは恐らくユーリスも道が同じだろう。だがフォードラッセについて、冒険者登録をしたとしてうまくやっていけるのかレヴはいまさらながらに不安を覚えたのだ。 「冒険者になるのが不安ならやめた方がいいんじゃない?」 「それでも冒険者になりたいんだよ。もともと1人では活動できないだろうから向こうで良い感じのパーティーにいれてもらおうかなって最初は考えてたんだけど……」  フォードラッセはそこそこ大きいだけあってレヴと同じように周辺の街や村から若い者達が集まり、そこでパーティーを組むこともある。だが……ちらりと他のテーブルに目をうつすと、同じようにフォードラッセを目指す若者達はすでにいくつかグループが出来ているようで、レヴのように1人でいるような者はいない。  ユーリスも周りを見てなるほどと頷く。すでに出来ているパーティーには入りにくいものだ。フォードラッセに行くまでにすでに戦い方が固定化されている可能性がある。まだ、補助の立場であれば入り込む隙間はあるだろう。だがレヴは前衛で槍を振るうしかできない。パーティーを組むために必須な役ではあるが、大体のパーティにはもうすでにいて、かつもう1人前衛を増やそうと思うのであれば、盾役だろう。攻撃が2人になると戦い方を合わせる必要が出てくるのだが、初心者のパーティーではそれが少し難しい。  だからレヴが希望するのは中堅くらいのパーティーであった。しかし、フォードラッセへ向かう途中にユーリスと出会った。 「ユーリスは人を探してるんでしょ?  それに私も付き合うから一緒にパーティー組まない?」 「確かに人は探してるけど……僕は商人だ。戦うことは専門じゃない」  ユーリスが首を横に振る。が、そこで諦めずにレヴは続けて言う。 「冒険者に必要なのは戦う力だけじゃない。私はユーリスと組みたいから誘ってるの」 「なんで?」 「ユーリスは信用できる人だから」  まっすぐとユーリスの目を見つめて言うと、はぁとため息をつかれて目をそらされる。 「……とりあえず、フォードラッセで他にいい人が見つかるまでなら、いいよ」 「見つからなかったら、ずっとパーティ組んでくれるってこと?」  その言葉にユーリスは何も返さなかったが、何かを呟いているようで口が微かに動いていた。だが、その声はあまりにも小さくて聞き取ることができない。 「ねぇ、今……」 「はい、お待ちどうさま!!」  レヴの声を遮って、給仕の人がテーブルにシチューをどんっと置く。二人分のパンが入ったバケットと、コップと水差しがレヴとユーリスの間を割っておかれていく。 「……食べよっか」 「そうだな」  出鼻をくじかれたレヴは代わりにそう言うとユーリスも頷いてスプーンを手に取る。レヴもスプーンを手に取ると、野菜が入ってるシチューを一掬いして口にほおばる。  肉と野菜のうま味がミルクでまろやかになっていてとても美味しい。野菜もごろごろ大きめに入っているので食べ応えのあるシチューだ。思わず笑顔になってしまう。 「美味しいね、ユーリス」 「……そうだな」  ユーリスはちらりと私の方を見てから同じようにシチューを掬うとそれを口にする。表情は変わらず、淡々と食べ続ける彼の様子を見ていると美味しいと思っているのかどうかは謎だ。 「……美味しいな」  だが、顔を上げてそう言うのだから表情は変わらずとも同じ思いでいてくれたようだ。うん!と笑顔で頷き返して、ほかほかのパンを手に取るとそれをちぎって食べる。そして他の客と同じようにちょっとした話をしながら楽しい時間を私は楽しい時間を過ごすのだった。
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