白亜の城 1

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 楽しい食事の時間も終わりが差し掛かった頃、給仕の人が一枚の紙を持ってやってきた。その紙を掲示板らしきボードに貼り付けると、あがった注文の声にそちらの方に慌てて走っていく。 「……この食堂にも依頼板があるんだ」 「依頼板?」  ユーリスがつぶやくように言った言葉を拾うと彼は知らない?と紙の貼られたボードを指さす。 「あれは冒険者に依頼を出す紙を貼り付ける掲示板なんだよ。だから依頼板。  基本は冒険者ギルド内にあるんだけど、ギルド以外でも人が集まる場所にあることがあるんだ」 「へぇ~……ねぇ、どんな依頼があるかちょっと見に行ってもいい?」 「いいよ」  こんな食事のする場所だから討伐系の依頼はないだろうし、と二人で席を立つと依頼板の方へと歩いていく。依頼板の近くには私たちと同じように気になって見に来た人たちも数人おり、その中に混じるように私も掲示板を見上げた。  数日前の洪水で橋が流されてしまったため東のオルタンシア地方への乗合馬車は立ち往生していること、危険な毒花が最近咲くようになったから誤って素手で触らないようになどの注意喚起のチラシに混ざっていくつか依頼の紙が貼られている。  ユーリスが言っていた通り討伐系の依頼はなく、旅の護衛や薬草の採取、迷子のペットの捜索依頼などそういう類の依頼ばかりであった。そして先ほど張り出されたのだろう、まだ新しい紙には灰都にある薬草の採取と書かれている。  その紙を見た人たちはすぐに掲示板から立ち去ってしまい、残るのはユーリスとレヴの二人だけだ。 「灰都ってなんだろ?」 「灰都っていうのはね、ずっと昔に滅んでしまった国の町のことさ。この町から歩いて三日ほど南に下った先にある場所だね」  レヴの質問に答えたのはいつの間にか背後にたっていたおかみさんであった。  ユーリスは少し驚いた顔をしながら、おかみさんに尋ねる。 「滅んでしまった国ってどういうこと?」 「……さぁ?滅んだ理由については詳しく知らないよ。なにしろ、ずっと昔のことだからね。エルフとか長命種に聞けば知ってる人がいるかもしれないけど。  あぁ、でもそこに書かれている薬草については知っているよ。ここらへんの地域で雨季になると流行り出す病に聞くやつだね。普段なら行商人がこの薬草を持ってきてくれるはずなんだけどそういえば、まだ来てないね……」  その言葉に先ほどみた洪水で橋がなくなってしまったというチラシを思い出す。もしかしなくてもそれのせいで行商人が来ていないのかもしれない。そうレヴが考えていると同じことを考えたのだろうユーリスがそれをお店の人に言う。 「橋が洪水で流れたからその商人も立ち往生してるからでは?」 「ああ、そういえばそんな話もあったね。橋が直るには少なくとも十数日はかかるし、その橋が直ってもここに来るまでにさらに何日かかかるだろうし……それを考えて依頼を出したのかもしれないけど……」  そこまで言っておかみさんは肩を竦める。実際この依頼を受けようとしている人はいないのはこの場にいてすぐわかることだった。 「ちなみに、なんでこの依頼みんな受けないの?」 「そりゃ、この薬草が生えてるところには魔物もいるし、幽霊とかがでるって噂もあるしね。  それにこの依頼、あんまり依頼料が良くないんだよ」  そういわれて依頼料を見ると確かに他の薬草採取の依頼とほぼ同じである。  他の薬草採取の依頼であれば、魔物が出る地域ではないためそこまで危険ではないからこの値段でも納得できるが、魔物と必ず出会うこと必須になるだろうこの依頼に比べると……危険を冒してでもこの依頼をしようとする者はいないのだという。  ふむとレヴはこのチラシを見て腕を組む。誰もやる者がいないと聞くとやってみたくなる。それに灰都には興味が少しある。  隣にいるユーリスに「ねぇ、なんとかしてこの依頼受けることができないかな?」と聞く。 「……君、この依頼やりたいの?」  正気?と聞くようにユーリスが言うのに満面の笑顔で頷く。 「でも君、冒険者じゃないでしょ?  冒険者以外の人が依頼を受けることはできないから諦めなよ」  そうユーリスに諭されて肩を落とした私に思いがけない声が後ろから聞こえた。 「あれ?でも、君はもう冒険者でしょ?」  おかみさんはにこっとユーリスに向けて微笑むと言葉を続ける。 「依頼を引き受けるのは冒険者じゃないとだめだけど、冒険者とチームを組んだりする人は別に冒険者に限らなくても良かったはずよ」 「じゃあ、ユーリス受けれるよね!!」  期待を込めてユーリスのぎゅっと腕をつかむ。  逃げられないと観念したのか、ユーリスが渋々と答える。 「わかったよ。  でも僕は商人だから戦うのはあまり得意じゃないから期待しないでよ」 「もちろん!私がそこはなんとかするよ!」  と言って背中の槍を持とうとして……持ってきていないことに気づいて頭をかくとユーリスはいかにも心配という顔でレヴを見返す。それを苦笑いで見ていたおかみさんもユーリスと同じ気持ちになったのか、パンッと手を合わせた。 「そうだ、それなら私も一緒に行こうか」 「え?」  私とユーリスの驚きの声が重なる。けれど、おかみさんはうん、それがいいと独り言のように呟き、頷く。 「じゃあ、明日の朝七つの鐘の時に町の南門あたりで待つよ。灰都までの道案内も必要だろ?」  道案内と言われてしまえば頷くほかない。そういえばどうやっていくかなど考えてはいなかった。レヴとユーリスが頷いたのを見ておかみさんは依頼のことなどはやっておくからと言ってその場からあっという間に姿を消してしまった。 「ある意味、レヴより思い切った人だな……」 「なるほど、私もあれくらい押しを強くすべきかな」 「やめとけ」
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