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「前から一匹!向かって右側からも一匹来てるよ!」
エルシュトが前を向いて剣を構えるのに合わせて、レヴも右側に向かって槍を構える。ヴァニラと共にユーリスが一歩後ろへ下がる。
ザザッと雑草をかき分ける音と共に黒い影が草むらからとびかかってくる。その黒い影に向かってレヴは槍を振り上げる。槍の穂先が掠ったが、黒い影はそのままレヴを飛び越えていく。
「ユーリス!」
「問題ない」
ユーリスはどこからか出した短剣を黒い影に向かって二つ投げつける。短剣が当たった黒い影はぎゃんっと悲鳴を上げてあらぬ方向に落ちて転がっていく。
ぎゃうんぎゃうんと吠えて、黒い影はそのまま草むらの中に消えていく。
「何あれ」
「よくわからんが、まともな生き物ではなさそうだ」
エルシュトは見事一人で影を倒し切ったらしい。それを掴むとレヴとユーリスの前にどさりと置いた。黒い影絵のような何か。大きさや形から狼のようにも見えるけれど、どこもかしこも真っ黒なのはさすがに異常だ。
じっと見つめているとしゅわしゅわとしっぽの方から黒い霧のようにその姿が消えていく。
「まともな生き物ではなさそうだね」
「そのようだな。
ここでずっと立ち話してるのも良くないし、早く薬草園に向かおう」
この道中に相手をした魔物よりも圧倒的にすばしっこい。あのような魔物が何体も出てきたら厄介だ。
レヴ達三人は目的の薬草園がある方へと急いで移動する。
人が何年も住んでいないというのに、建物に彫られた装飾などを見るとここが”都”と呼ばれるのも納得の景色だった。雑草はあちこちに生えて伸びきり、石ころや崩れ落ちた壁が散乱しているとはいえ、かつての栄華の欠片がところどころに残っている。
だが、町の中には先ほど見た黒い影の魔物が至る所に潜んでいるようだった。狼型、鳥型、虫や果てには人のようなものまでが町の中を彷徨い歩いている。
息を潜めて、魔物に見つからないように町の中を歩いて行く。
ユーリスが持っていた姿隠しの薬のおかげで音さえ立てなければ魔物はこちらに注目することはなかった。難点は味方全員が薬を使っているからお互いの姿を確認できないことだけど、それは互いに手を握ることで解決済だ。
ユーリスは手を繋ぐことを嫌がったが、無理やり手を繋いだ。繋いだ手がひんやりとしているのは緊張からだろうか。
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