白亜の城 2

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 エルシュトに引っ張られるがままに白い街並みを横切っていく。  白い壁の一つの家につくと扉を開ける。扉の開けた音に近くにいた鳥の魔物が家の方を見るが、近寄ってくることはなかった。  家の中に入り、魔物が中にいないことを確認すると扉を閉めた。ほっと息を吐くと姿隠しの薬の効果が切れたのか仲間の姿が見えるようになった。 「ふぅ……生きた心地がしなかったよ。  この依頼を受ける冒険者がほとんどいないのも納得だね。割に合わないよ本当」  エルシュトがそうため息交じりに言うのにレヴも頷く。あの町の中の魔物を倒しながら薬草園まで来るなんてなかなかの猛者でないと無理だ。 「まさかあんなにも魔物がいるなんて思ってもみなかった。  でもユーリスの薬のおかげでなんとかここまで来れたね」 「運よく薬が余ってたから」  ユーリスが淡々とそう返して、握っていた手をぱっと放す。そしてそのまま家の中を見回した。  家の中にはいろんな植物が生えていた。棚を覆うように蔦が伸びていたり、天井から花が咲いてたり、若干野性味の強い薬草園だ。 「さてそれじゃあ、お目当ての薬草を手分けして探そうか。  君、採取用の道具は持っているんだろう?」  エルシュトの手に無言でユーリスはスコップや手袋などを乗せる。さすが用意がいいねとレヴが褒めるとレヴの手にもスコップと手袋が乗せられた。 「僕は他にどんな薬草が生えてるか確認するから。がんばって」 「はーい、がんばりまーす」  ユーリスは家の中をちらりと見回すと気になる薬草があったのか奥の方へ歩いて行く。  レヴはエルシュトの方へ近づくと彼女の隣に座り込んでそこに生える草を調べた。もちろんユーリスが渡してくれた手袋をちゃんと嵌め、草の葉をかき分け、雑草の束を仕分けていく。 「君と商人の子は同じ故郷の出なのかい?」 「いえ、違います。  ユーリスとはフォードラッセに行く道で知り合ったので」 「へぇ、随分仲良さそうに見えたけど」 「まだ出会って数日ですけどね。  ユーリスは良い人なので」  レヴはそうエルシュトに答える。薬草を探すついでにぽつりぽつりと会話をする。昔やんちゃをしてたエルシュトさんは都会で騎士をしていたとか。だからあんなにも強いんだとか。  今は故郷に帰って親から宿屋を引き継いだのだとか、そんな話をしているうちに気が付いたことがあり、レヴは話のついでにそれを聞いてみる事にした。 「エルシュトさんはなんで灰都に詳しいんですか?」  道案内ができるということは前にもここに来たことがあるのだろう。レヴの質問にエルシュトは一瞬、雑草を取る手を止める。 「そうだよねぇ。いくら鈍感な子でもそれに気づくよねぇ」 「鈍感って」 「ははは。いつ聞かれるのか正直私はドキドキしてたんだけどね。あまりにも君もあの子も聞いてこないからさ。どうしてなんだろうって思ってたんだよね」  確かに。言われてみればユーリスが聞いていないのは不思議だ。私よりも先に気づきそうなものなのに。  レヴがむむと腕を組んで眉根を寄せると、エルシュトはあははと笑った。 「まぁ、あの子はなんか面倒毎に巻き込まれると思って聞かなかったのかもしれないね。それに依頼には何にも関係ない話だし」 「じゃあ、聞いてもいいんですか?」 「構わないさ。  私がこの灰都に詳しいのは……ここが私の生まれた場所だからさ」 「えっでも、さっき故郷って……」 「私は灰都で生まれて、あの町で育ったんだ。  だからあの町は第二の故郷って感じかな。  それに私もここで暮らしていたことのことはほとんど記憶にないんだ。ただ家の中の小さな箱の中に入ってひたすら息を潜めて隠れていたんだ。何かを恐れてね。  そして、偶然この都を訪れていた両親に見つかってそのまま彼らについてったんだ」 「記憶がない?」  エルシュトは立ち上がると懐かしむように家の白い壁を撫でた。 「ああ、そうさ。  私は何故この都が灰都になってしまったのか知らない。  こんな立派な建物が立っていたくらいなんだ。恐らく騎士や、何かだってたくさんきっといたはずだ。けど今や人っ子一人いないどころか誰もそれを知る人がいやしない。不思議だろう?  昔はそれを調べようと勇んで冒険者になったもんさ。結果は駄目だったけどね。なんにもわからなかった。  灰都の薬草が流行り病に聞くのは知ってたからちょくちょく訪れる冒険者とたまにこうして灰都に行く事はあったけど、最近は行商が薬草をどこかからか仕入れてくれるようになって出入りもなくなってたんだ。  君達は本当に久しぶりにこの地に訪れた冒険者だよ」 「そうなんだ……。  エルシュトさんは今でもこの灰都について調べたいと思ってる?」 「いや……。もう大分長い年月をかけて調べたからね。諦めてるよ」  肩を竦めて少しだけ寂しそうにエルシュトが言う。それがなんだかちょっとだけ悲しくてレヴはどうにかできないかと考える。  考えたところで何も出て来なかったけれど。でも。諦めるのはなんかまだ早いような気がする。  しゃがんだ先にあった草を無意味に引っこ抜く。 「薬草探し終わった?」  レヴが頭を悩ませているとひょこりと部屋の奥へといったユーリスが顔を出した。  気になる薬草は採取できたのか、手にスコップなどは持っていなかったが、ズボンや服の袖に土がついていた。  レヴは勢いで引っこ抜いた草をポケットに入れ、手を振る。後でこの引っこ抜いた草は調べればいい。
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