壱 賤ヶ岳の戦い

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 戦後、秀吉は大坂本願寺の跡地に、黒田(くろだ)孝高(よしたか)を総奉行として大坂城を築いた。「三国無双の城」と言われたこの城はかの安土城を勝る名城とも言われた。  お市の方の美貌に惚れていた秀吉は、何としてでもお市の方を保護したかったが、今となってはもう、それは叶わない。しかし、美女と謳われた母・お市の方に、茶々はよく似ていた。  だから、秀吉は茶々を側室にしようと思い、戦の後、居城へと連れ帰った。ここで、秀吉の正室・ねねと三姉妹が対面した。  これが、ねねと茶々──後の淀殿との初対面であった。浅井の出だけはある、教養のありそうな娘だと、ねねは思った。 「お初にお目にかかります。茶々と申します」  姉の茶々に習い、初と江も挨拶をする。  秀吉の庇護の下にいるのは、彼女らには快くはないだろう。何せ秀吉は、父・浅井長政、母・お市の方の(かたき)である。父母の敵のもとで生活するのは、さぞかし苦であろう。  今や、敗軍の将の娘となった彼女らに、秀吉のもとを去る権利はない。それに、秀吉も三姉妹を手放すつもりも毛頭ない。浅井、織田の血を引く娘、(まつりごと)の駒としての利用価値がある。秀吉が三姉妹を引き取ったのも、それ故である。 「ねねと申します。自分の家と思うて、ゆるりと過ごして下さい。何か入用なことがありましたら、遠慮のう申して下され」 「はい。お気遣い、痛み入ります」  そう答えるも、茶々は冷ややかな目でねねを見ている。ねねは、そんな目を気にせず、侍女に居室となる部屋へ姉妹を案内させた。
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