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ちょうど彼女らと入れ違いに、秀吉が部屋に入ってくる。ねねの前に座るや否や、秀吉が口を開く。
「ねね、決めたぞ」
「何をでこざいます」
声が震えるのを隠しながら、ねねは言う。秀吉が言おうとしていることは、既に分かっている。
「浅井の姉妹を養女にする」
「さようございますか。嫁ぎ先は決めたのですか」
「いや、まだ決めておらぬ。されど、良き嫁ぎ先を見つけねばな」
聞きたいのは、そんなことでははない。ちゃんと秀吉の口から聞きたかった。
「それより、御前様。茶々姫のことはどうなされるのですか」
「茶々か? どうするとは、どういうことだ?」
若い娘を何人も側室にしてきたではないか。何を今更、隠そうとするのか。ねねは苛立つのを覚え、さらに聞く。
「お前様が茶々姫を側室になさると、家臣らが話しているのを耳にしたのですが」
「何時、何処で聞いた」
「さぁ。戦から戻ってすぐかと。側室になさらないのですか」
「う、うむ……」
曖昧に返事をし、視線を泳がせる。そんな秀吉の態度に、ねねは苛立ちを抑えながら畳み掛けるように言う。
「別に、今更側室を置くなとは申しませぬ。ただ一言おっしゃって下されば、わたくしは何も言いませぬ」
「良いのか」
「はい」
何故遠慮なさるのかと、ねねは思うもそれは言わず、お好きになさいませと僅かに微笑んだ。嫉妬していないと言えば嘘になるが、仕方ない。子の出来なかったねねに、側室を置くなと言う資格はない。
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