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「誰か助けてください!っ誰か!」
必死で周りに助けを求めるが、立ち止まる気配は一層にない。周りでは老若男女構わず山の方に向かって走っていて、後ろは既に核兵器の被害が及んでいる。後2、3分もすればここまで火の気が回ってくるだろう。もう自分はここで死んでしまう運命なんだ。そんなことを思い目を閉じた瞬間に誰かの強く叫ぶ声がした。
「汐留!早く逃げるぞ!」
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『夜明け前、僕は君と同じ夢を見た。
その夢は、辛くて、怖くて、
、、、、、、、忘れたかった。正直。
でも、君と共に過ごしたあの夏、
それだけは忘れたくなかったから、辛いことも怖いことも、全部覚えて た。
あのなびく髪も全部綺麗で。
気がつけば僕らは最前線にいた。
そこで分かったんだ。
ああ、これが現実なんだ、って。
さぁ、世界が終わる一日前の話をしよう。
僕らが再び、あの夏に戻れるように。』
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「明日は雨なんかなぁ。」
隣で翔太がサイダーを飲んでいる中、不意に言ってみる。
「雨、だろうな。貝木さんも言ってたし。」
いつも見ている気象予報士の名前を挙げられる。なるほど、雨か。
私は自分が持っていたサイダーをグッと飲み干し言った。
「梅雨が明けるまであとどれ位なのかな、知ってる?」
「知らないよ、でも僕は梅雨も好きだから。」
「梅雨が?なんでよ?私は嫌いだなー。じめじめしてるし、何だか気分も落ち込むし。だから、早く夏よこい!って感じ。」
「夏が好きだから梅雨も好きってこと。」
なるほど、よく分からない。私は飲み干したサイダーのビンを指で振ってみた。
カランコロン。ビー玉の転がるいい音がする。
「んー。つまりこの音を聞くための梅雨ってことね!」
「そっちのほうが何言ってるかわかんなくなりそう。」
「違いない。」
すっと顔をあげてみる。サイダーみたいにシュワシュワした音が聞こえてきそうなほどに水色な、空。まだまだ梅雨が来ないのも事実。でも、いつかは必ず夏がやってくるのも、また事実。
もうすぐ、夏がやってくる。
高校生活最後の夏。自分としてはかなり後悔はあるほうだと思う。笑えればそれでいいのだと、いつも思っていた。でも、翔太はそんな私を見て言った。
「笑えるだけでいいの?後悔は見えないの?」
「そりゃ何でも上手くいくわけないから後悔なんていっぱいあるよ。た だ、、」
後悔だけを追い求めることによってつまらない人生を送りたくないだけ。私はそう言った。
「僕は後悔を残したくないかな。例えば、サイダーとか。」
翔太はサイダーをひょいと持ち上げて言う。
「飲めないと一生引きずりそう。何であの時飲まなかったんだろうって。」
「たかがサイダーで?」
「もしかしたらサイダーが好きなのは今だけかもしれないから。好きなうち に好きなことをやっておくのって、すごく大切なことだと思うよ。」
そんなものなのかな。どうしてか翔太が言ったことは全部この世の回答み たいに思えてくる。
「じゃあ!」
不意に声を出したのに驚いたのか翔太はビクッと肩を震わせた。
「これから夏を一緒に迎えに行かない?」
「、、どうしたんだよいきなり。」
「好きなことは好きなうちにやっておくんでしょ?夏が好きなのも今だけか もしれない。」
「そうだね。後悔は残さないようにしないと。」
翔太は笑ってそう言って、よし行こう!と立ち上がった。が、
「もう夕方だよ、明日にしない?」
「じゃあ明日の朝サイダー買ってここに集合する事!」
「分かった。じゃあね。」
バイバーイ。翔太の姿が見えなくなるまで手を振り、あたりを見渡すと 夕暮れの景色が広がっていた。
どうしてだろう、なぜかいつもこの景色を見ると悲しくなってくる。世界 で私だけが生き残ってしまったような、そんな感じ。
私もう帰らなくっちゃ。一人でそう言い、夕暮れの世界を家まで歩き始め た。
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『世界は僕だけを消していったはずだったのに、
いつの間にか君も消えていった。
もう僕に思い出はいらないんだ。
心残りもないはずなんだ。
だから、お願いだから、
僕を一人にはしてくれないかな?
Ifの世界で今日より明日が良かった、なんてことは
もういらないから。
でも、強いて言うなら。』
、、、、もう一度君とサイダーを飲みたいかな。
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時々目が覚めるといつの間にか泣いている事がある。今日はないが。
ジリンジリンと鳴り響く目覚まし時計とカレンダーを横目に今日の予定を思い出した。そうだ、今日は翔太と夏を迎えに行くんだ。一人で思い出して、一人で笑ってしまった。相変わらず子供っぽいことを言うもんだな、私は。
リュックにスケッチブックと4B鉛筆をいれ、冷蔵庫へと走る。サイダーはー
あった。慌てて詰めていつもの神社へと走る。
「遅い。二分遅れ。」
「私集合する時間なんて決めてたっけ?」
「してないよ。なんとなく。」
何よそれ、と軽く翔太をごつく。
「それより見てよ。」
と、翔太は神社の奥を指差した。海が広がっていて、街並みの景色もキラキラと輝いている。
「そういえば今日雨って貝木さん言ってなかったっけ?」
「あくまで予報だからね。外れることもあるでしょ。それよりこの景色。」
「、、、、、綺麗だね。夏みたい。」
「そう、夏なんだ。世界中の中で僕たちが一番初めに知った、ちょっと早めの夏。」
「独り占め、いや、二人占めし放題だね。」
「かもね。」
その日はいつも通りサイダーを飲んでスケッチをしただけで終わった。それは、これまでがいつも通りであったことを表すとともに、次に起こる事を予知していたのかもしれない。
大好きな夏が、大嫌いな形となって現れた。
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