第2章 交差する妬みと思い出

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牛フィレ肉のステーキをナイフとフォークで切り分けながら、萌々香は切ない溜め息を吐いた。 「『俺、もうそろそろ出ようと思ってたから、ゆっくり休んで行って』だっけ?完璧ドラマの世界じゃん。イケメンな上に、細かな気遣いもさり気なく出来る…ほんと最高だよ」 柔らかな肉片にソースを纏わせ、萌々香はステーキを口へ運んだ。 そんな彼女を目にしながら、玲那もまた分厚いフィレ肉にナイフを入れる。 余計な力など全く必要なく、それは簡単に切れた。 ステーキを咀嚼しながら、玲那もまたぼんやり思う。 いやらしそうなおじさんだったら、速攻逃げよう-そんな考えなど瞬時に吹き飛ぶ、若く、爽やかで、そして最高にイケメンの『お連れのお客さま』がひとり座っていた。 戸惑う自分を余所に彼は『遅いよ』と、悪戯な子供のような笑みを浮かべた。 それからとにかく目の前の席に座る事を促し、メニュ―表を手渡してきた。 押し付けがましくなく『今日のお勧め』を囁かれたので、玲那は心臓をばくばくさせながら大人しくそれを注文した。 店員がにこやかに厨房に下がったのを見計らい、緊張の余り俯く玲那に賢哉は告げた。
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