ドロールゲリープテ

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『夜遅くにごめんなさい。でも言っておきたくて、今って時間ある?』 それだけのメールだった。 翼先輩からの。 飛び上がりそうなほど、嬉しかった。 僕は震える手で返事を打ち込む。 心臓がバクバクと鳴り続ける。 「大丈夫です......と。」 すると、すぐに電話がかかってくる。 翼先輩と書かれたその画面に釘付けになっていた。 翼先輩からなんて......!! 嬉しすぎる。 ふわふわして夢見心地だ。 僕はすぐに出た。 画面をタップする手が汗で滲んできて、変な汗までかいている。 それでも僕は止まらず、タップした。 「はい。」 『......あ、佐藤くん?』 うわあ......。 すごいや......。 思ってたより破壊力がすごい。 なんか全部吹っ飛んでふわふわしたような嬉しさが込み上げる。 とはいえ、緊張する。 でもなんだか愛しくなる......。 もっと聞いていたくなる。 なんて、僕って性格悪いかな......。 「......どうかしたんですか?」 『その、明日は親とかはいないから。一応言っておこうかなと思ったの。』 「!?」 『それだけだから、特に何かがある訳じゃないの。』 「......。」 やばい。 それは完全に......。 きっと、明日は一つ屋根の下に二人っきりということでは!? もしかして......翼先輩は僕を誘ってる......? 「......。」 『佐藤君?』 「あっ、いえ!!それで、明日はどこで待ち合わせしましょうか?」 『そうね......。駅にでもしましょ。』 「はい!!」 今日と同じ。 きっと翼先輩は僕を誘うとかそういう(やま)しい気持ちはない。 純度ゼロ%なんだろうな。 それもそれで少し悲しくなる。 仮の恋人とはいえ......。 僕が身勝手な期待しすぎなのか。 「それじゃあ......。」 『そうね......。』 「......。」 『......。』 もう少しこのままがよかったなぁ......。 なんて、本当に馬鹿みたいだ。 我儘なのは十分承知だ。 それでも尚、もう少し声を聞いていたいなんて思っている。 もう話す話題だってないのはわかっている。 それでも()いでいたい。 「......ごめんなさい、じゃあまた!」 『......っそうね。』 それを無理矢理切ったのは僕だった。 ずっと心臓がドクドクと脈打つ。 早く鼓動が鳴って苦しくて痛くて嬉しくて。 でも、もう夜なんだし、翼先輩に迷惑かけてしまう。 明日も会えるんだから。 だから、もう......。 『プツン......。』 携帯から聞こえたその音にドクンと強く痛く響く。 切れた。 繋いでいたい電話はあっという間に。 駄目だ、悲しくなんかない。 後悔もしていない。 明日は、翼先輩の隠していることを聞けるんだから。 それがどんなものだとしても、僕は受け止める。 無理にとかではなく、なんとなくそう思っている。 明日は......。 そうして、一夜を明かした。 日付は変わる。
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