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◆◇◆
美和先輩たちの話を少しだけ聞こえてしまったからか、照れてしまう。
アオハルって言えるほどハッピーエンドではないことは知っている。
片想いのまま終わってもそれは淡い片想いで終われるのかもしれない。
息を乱して全速力で走り抜ける。
「はあ、はあ、はあ、・・・・・・っ!」
体力もあと少ししかない。
こんなにも全速力で往復しているのに、翼先輩は速すぎる。
もしかしたら僕がスタート自体が遅かったのか......。
通り過ぎる人たちには悪いけど道を譲ってもらった。
滅多に走らないし、運動だってしない。
へなちょこだし、体力もない。
それでも翼先輩は特別だ。
「あ、あの!」
そういうと同時に保健室のドアを開けた。
中では先生がいるだけにしか見えない。
......もしかして、いないとか?......そのもしかしてだったりする?
不安が過ったが打ち消して先生に聞いた。
「あら、どうしたの?」
「すみません。翼先輩っていませんか?」
清水先生に僕は不安がちに言った。
聞いた話では清水先生はししょーのお姉さんらしい。
清水先生はまだ若いし、顔もどことなく似ている。
ちなみにこの順なら翼先輩は絶対いないような気がする。
さっきみたいに空振りな気がして怖い。
「ごめんなさい、来たけどついさっき行ってしまったのよ。」
「でっ、ですよね・・・・・・。」
少しでも期待してしまった。
それはそうだと思っていたけど、ショックだな......。
「確か、男子生徒に呼び出されていたから告白とかされたりね。」
こ、告白......。先を行かれた。
がくりと肩を落とした。
「そんなにショックなの!?・・・・・・大丈夫よ。彼女ならどういう反応するか知っている?」
たしかに、翼先輩は絶対に断り、完全無敗。
誰一人として落としたことがない。
「先生だって、情報ぐらいなら知ってるんだから。頑張ってきなさい。」
「ありがとうございます。」
清水先生はにこりと女性の余裕があってすごい。
どんなときでも穏やかなんだろうな......。
「それでも駄目だったら来なさい。慰めてあげるから。」
「あはは・・・・・・すみません。行ってきます。」
ドアを閉めて翼先輩がいつも呼び出されているところに向かう。
人目のつかないあそこで行われる。
告白が怖いけど今さら何もかも逃げ出すのは嫌だ。
一世一代の告白だ、頑張らないと。
◆◇◆
すごいわね、今時の子って、あんなに盛んなのね......。
清水 亜美(しみず あみ)はそんなことを考えていた。
コーヒーを飲みながら冷蔵庫に隠している飴を口に放り込む。
私もああやって追い掛けられることがよくあったわ。
今は落ち着いているけど、独身じゃない。
なんだかあんなのを見ていたら彼氏に会いたくなった。
「あ、もしもし。英(はなぶさ)くん?・・・・・・今週末会えないかしら?・・・・・・本当に?やったー!」
年も関わらずはしゃいだ。
女ってのは年とか関係なく喜んで彼と会う度にお洒落して自分を磨くもの。
だからはしゃいだってそのためのいい薬になるのよ。
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