コイビトイミテーション

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「実は僕、ある人に恋しているんです。」 「恋ね・・・・・・。」 僕は俯いてぽつぽつと発言した。 夕焼けが眩しい中、僕と大輝先輩の顔も夕焼け色に染まりつく。 僕はある人ってだけで誰かなんて名指ししていない。 大輝先輩は関心したように僕の言葉を繰り返した。 僕は頷き、また口を開いた。 「・・・・・・彼女は僕なんかじゃ到底手に届かない存在なんです。」 「ああ。」 そうだったんだ。 僕には絶対に見合わない。 翼先輩と釣り合うもっといい男にならないといけないんだ。 今の僕なんかじゃ無理なんだ。 きっと僕はいい男になんかなれない。 「回りと比べても一目瞭然なんです。」 「ああ。」 僕は俯いて大輝先輩とも目を合わないように、なんとなく怖かった。 大輝先輩は生返事をしている。 大輝先輩なりに聞いていないフリをしているだけできっと聞いているんだ。 「きっと僕には一パーセントしか望みはないことも知っていますよ?」 「ああ。」 「その一パーセントに頼ってばかりじゃ駄目なことも。」 「ああ。」 本当に僕って馬鹿だな。 どうして今頃になって気づくんだろう。 こうして大輝先輩と相談を通して自分の気持ちが見えてきた。 改めて自分の気持ちを知ると変な気分だ。 こんなにも欲望があったなんて......。 「絶対に僕なんかじゃ駄目だから・・・・・・。」 「まひろ。」 ふいに大輝先輩はさっきとは打って変わって生返事ではない、しっかりと低くよく通る声で僕の名前を呼んだ。 僕は先程と違う雰囲気を纏った大輝先輩を顔を上げてじっと見た。 ドクンと心の臓が鳴らした。同時に喉がひりつき唾を飲み込んだ。 「俺は相談をのるために来てんだ。誰もお前に言い訳なんざ聞いてねえ。」 「・・・・・・っ。」 「俺はお前がどうしたいかが知りてえんだよ。」
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