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サザンがゆっくり窓に向かうのに合わせて、引きずるように身体を動かした。
全てをサザンに委ねるわけにはいかない、自分の限界ギリギリまで、出来ることはやろうと思った。
窓とグライダーの隙間を縫ってバルコニーに出ると、雨は少しだけ収まっていて、びゅうぅと風が吹き荒れていた。
サザンは一度私から離れて、窓に突っ込んだグライダーをバルコニー側へ引っ張った。
火事の炎がもう窓際まで迫ってきていた。黒煙が勢いよく噴き出して、空へ昇っていく。
サザンはグライダーの錨をバルコニーの柵に引っ掛けて、また私の傍へ戻ってきた。
「シーナ、あっちまで、もう少しがんばれる?」
サザン、あのグライダーで脱出する気なんだ。
でも私。
ここまで来て。サザンにここまで導かれたというのに。
逃げようという気がごっそり抜けた。
グライダーに二人なんて無理、というのもあったけど。
城の炎を見つめ、城の皆、パパも、ザザも、いなくなったというのに私だけ、私だけが生き残っている。
その事がどうしようもなく──嫌だったんだ。
「サザン、
サザンだけでいい、私を置いて。
サザンだけで、このグライダーで遠くへ逃げて…!」
私の頬を冷たい涙が濡らす。
サザンの命だけ助けたくて私はそう叫んだのに。
「ダメ、シーナ、許さないよ、
一緒に行くんだよ」
鋭い言葉のはずなのに、妙に温かみを感じた。
サザンは私をグライダーまで連れていって、命綱を私の胴体に巻きつけた。
それから、力の入らない私の両腕をサザンの腰に抱きつかせ、そこにさらに命綱を巻いた。
サザンは両手でバーを掴み、グライダーを持ち上げた。
びゅうぅっ。
バサバサバサ。
風を受けて翼がはためいた。
一等の強風が駆け抜けた時、サザンが足で錨を蹴飛ばした。
私の予想に反して、グライダーは私達ごと軽々と空へ舞い上がった。
あの日の旅立ちの瞬間を思い出す。
今度は一人じゃない。
そう思ったら、サザンの腰にしがみつく力が少しだけ蘇った。
…
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