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「イオ、じいさん、大事な人が見つかってよかったな。
ここじゃゆっくり話せないだろう、まずは俺らの村に来て貰おうや」
もうひとりの男が、イオさんの肩を抱き、じいやさんの背中をさすりながら言った。
「姫様、こっちですじゃ」
じいやさんが涙を拭いながら僕達を先導する。
じいやさん達が現れた垣根の陰に、僕が通ったのとは違う、外部への抜け道があったのだ。
シーナと僕は男たちにおぶられながら、じいやさんとイオさんが代わる代わるに話してくれるのをじっと聞いていた。
シーナがお城を逃げ出したあの日。
異変に気付いた時にはもう、お城は火の海だった。
逃げ遅れた者はもう身を焼かれ、無事な者を確認する暇もなかった。
ただただ、城主様が逃げ込めと言ったこの抜け道を目指して、じいやさんとイオさんは走ったという。
この道は、お城の敷地を越えて、森の中も突き抜けて、とある村の傍まで続いていた。
かくして二人は、その村に身を隠した。突然の陰謀に翻弄されながらも、無事にそれを振り切ったのだ。
でも、お城の事はずっと気がかりだった。
村は少し高台にあって、それのおかげで森は下に見え、お城は遠くにかすかに見えた。
毎日毎日、お城の方角を見つめていて…
今日、お城から炎が上がっているではないか…!
いてもたってもいられず…村の男達の手を借りて、こうして出向いたというわけだった。
「さあ着いたぜ、ようこそ、クルーの村に」
イオさんの肩をずっと抱いている男が、僕達を振り返って言った。
シーナがそれを聞いて息を飲んだのを、僕は見逃さなかった。
「シーナ? どうかした?」
僕が小声で聞くと、
「…ママが、住んでいた村だ」
そう言いながら伏せたシーナの目から、涙がひと筋流れた。
…
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