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「サザン、まだ居れる?」
「うん。あっそうだシーナ、お墓参りさせて。ねえさんにも挨拶しなきゃ」
「もちろん。ザザもずっとサザンに逢えなくて寂しがってるよ。
あっそうだサザン、向こうにね、綺麗なお花が咲いてる所があるんだよ。
そこでお花摘んできて、お墓にお供えしようか」
「いいね。でも、どうやって?」
「…グライダーで!」
冗談?? と思ったら、シーナは本気だった。
バルコニーの隅に小さな物置小屋があるんだけど、そこから、あの日の折り畳み式の白いグライダーを引っ張り出した。
時々気晴らしに飛んでるんだよね、とはにかみながら前置きして、
「ついておいで!」
シーナは空へ飛び立った。
美しい飛び方。やっぱりシーナはグライダー操縦の天才だ。
「姫様ーっ、また、その格好で!
はしたないって、何度も申し上げてるのに!」
門前の広場からじいやさんが叫ぶのを、
「あはは、サザンと一緒にお花摘んでくるから、見逃して!」
シーナが空の上から笑いながら被せるのが可笑しくてたまらない。
「姫様の事、宜しくお願いします。お気をつけていってらっしゃいませ」
イオさんにそう見送られながら、僕も黒いグライダーで空を滑った──
「シーナぁ」
「なあに?」
僕は心を込めてその名を呼ぶ。
──これまでも、これからも。
君はその度に潤しい黒髪を揺らしながら振り返って、
柔らかい黒い瞳を眩しそうに細める。
その姿は
僕の心にずっと焼きついたままだろう
それでも…かまわない?
親愛なる漆黒の王女へ。
漆黒の王女〈完〉
…
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