いじめ

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いじめ

私は学校ではとても引っ込み思案だった。 家では陽気に歌を唄い、茶目っ気たっぷりに踊ったり。。 ちょっぴりお調子者。 なのに学校へ行くと途端に 借りてきた猫の様に大人しい子供だった。 小学校に入学してから半年もたたない内に私はクラスの集団いじめのターゲットになっていた。 理由はわからない。 でも、クラスのみんなが私という存在を無かった事にしようとしているのだけは。。 幼心に感じていた。 例えば。 話しかけても無視されるのはもはや日常と化していた。 もちろんとても寂しい記憶はある。 ただ。。。 もっと寂しかったのは。。 自分が無視されているのを担任の先生に訴えた時だ。 先生「それでは班になって工作をしてください!ノリとテープはみんなで仲良く使って下さいね!」 先生がそう言うと 机を向かい合わせて6人程のグループ席を作り始める。 隣の席の子とは正面に向い合い、後ろの席の子は隣りに並ぶ事になる。 机はピッタリくっつけなければならない。 規律良くする為だろうか。 先生は恐らく気付いていないが。 私の席の周りだけ明らかに隙間だらけだった。 私が隣りや前の子と机をくっつけようとすると避けるように移動される。 誰にも気付かれないようにしてたのか。。 本当に上手に少しだけ動くのだ。 「気のせいだよ!」 と言い訳が出来るくらいほんの少し。 今思い返すと小学1年生がそこまでの陰険な気持ちを持ち合わせているとなると。。 人は皆、産まれながらに ものすごい「悪」をもっているのではないかと思う。 工作で使う糊やセロハンテープは私の前を行ったり来たりしている。 授業で与えられたノルマを達成するには「使わない」という選択肢はない。 「次、私にも貸して?」 ほほえみながら声をかける。 もちろん無視だ。 なぜか私より後に声をあげた借り手に回ってしまうのだ。 気のせいだったかな。。 そう自分に言い聞かせてもう一度聞く。 「次、私にも貸して?」 6人程いたクラスメイトが全員聞こえていないのだ。 まるで私はそこに存在していないかの様に。 時間は刻刻と進んでいく。 このままでは私1人何も完成せぬまま終わってしまう。 それはそれで恥ずかしい。。。 「先生。。。みんなが貸してくれないです」 私は先生にちょこちょこと駆け寄り小さな声で聞いてみた。 「あなたにも原因があるんじゃない?」 私は何も言えなかった。 ただ唯一。 教師という生き物を信用しないと決めた瞬間だった。 それから私は。 バイ菌としてクラスにいた。 話すとうつる。 触るとうつる。 給食の時間はまた班になる。 6個程の机を全て覆えるくらいの大きなクロスを敷くのが学校の習慣だった。 なぜか。 私の机だけクロスがない。 上手に私の席をクロスまでもが避けていた。 その現実を受け入れるのが精一杯で 「なんで?」でもなく。 「やめて?」でもない。 (。。。いいや。。。) 私は味のしない給食を毎日食べるだけだ。 そしてクロスの洗濯当番をいつも押し付けられる。 私の何がいけないのか。。 必死に探した。 性格。。? 顔。。? 態度。。? 何か悪いことをしたのなら謝るのに。。 無視されたんじゃわからないよ。。 家に帰ると母は 「今日は学校どうだった?」 そう聞くのだ。 「うん!楽しかったよ!」 精一杯の笑顔だ。 虐められてる事が恥ずかったのではない。 自分の子供が虐められてると知った親の顔を見たくなかった。 きっと悲しむだろうと。。。 本当に純粋にそう思った。 まだ7歳だ。 大人程の感情も感じる事は出来ないし それを言葉にする事も出来ない。 この気持ちをなんて言葉にすればいいのかわからない。 今思えば、それが救いだったかもわからない。 でも。 今も記憶の片隅に「私はいじめられた事がある」と言いきれる程。 毎日続く、陰湿ないじめという「遊び」に付き合わされる。 いじめを苦に自殺する子供が後を絶たない。 でも。 わかる。 逃げればいいとか 誰かに相談すればいいとか。 できるはずがない。 仮に出来たとしても その先に希望なんか持てるわけがない。 いじめは静かに そして確実に人を追い詰めていく。 こういう新しい遊び方をみんなが楽しんでいる様にすら思えた。 学校は嫌いだ。 私は何となく。。。 この人たちは1人では怖くて戦えない人達なんだと思った。 集団でいると きっと罪悪感も薄れて 「次は何をしてやろうか」 そういう顔をしていたように思う。 それでも学校は休まず行った。 居場所はないけど ただ過ぎていく時間をじっと待つのだ。 とてつもない孤独感を 大人になった今でも上手く表現する事が出来ない。 これを一定の年齢の子供がまともに受けたならば。。。 逃げ道のない迷路を永遠さまよい続ける事になるのは容易に想像がつく。 子供とはなかなか末恐ろしい1面を持っていることを思うと。。。 「子供って純粋でかわいい」などと到底思えないのだ。 大人の知らない子供の姿は大人の想像を遥かに超えてくる。 そんなある日。 私を冷たい目でいつも見つめるクラスメイトが「今日一緒に遊ばない?」そう私に話しかけてきた。 とてもウキウキ楽しそうだ。 あまりにキラキラして言うもんだから。 (。。やっぱり気のせいだったのかな!せっかく誘ってくれたしこれをきっかけに仲良くなりたいな!) 心底嬉しかったからスキップでもしたい気分だった。
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