これが恋だと気づくまで

3/9
前へ
/30ページ
次へ
3 例のペアワークで、また宮内君と英文を読むはめになってしまった。 高3になってから、なぜかよく話しかけられるようになったけど、人見知りが激しいせいでなかなか慣れることができずにいる。名前を呼ばれる度に肩を揺らしていたら宮内君に失礼だ。自分のためにも相手のためにもさっさと慣れたい。 「今更なんだけど」 英文を読もうと教科書を睨むように見ていると、宮内君が別の話を始めようとした。英文なんか読みたくないから有り難いと言えば有り難い。私は教科書を置いて宮内君を見た。 「クラスマッチのバスケ、流石に何もしないのはどうかと思うから、みんなとやるのが嫌なら俺と軽く練習やらね?」 何を言い出すのかと思えば、まさかバスケの練習の誘いだなんて。 あちこちから英語が飛び交う中、私の頭は日本語で埋め尽くされていた。噛みまくっている下手くそな日本語。日本人として失格だ。 「え、や、そんな、いいよ。迷惑はかけられない」 え、から始まる癖を直したい。最初の言葉をはっきり言えない上に声も小さいだろうから、相手からしたらイライラするくらい聞こえないんじゃないだろうか。頭ではそうだと理解できているのに、行動に移すとやっぱりできないこの現象に名前をつけてほしい。 「じゃあ見てるだけでいいからさ」 どうしてそんなに私と一緒に居たいのだろう。いや、それだと自意識過剰だと思われてしまう。宮内君は私のためを思って言っているんだ。ただでさえ足を引っ張っているんだから、嫌でも少しは練習しとけって。 私は総体を機に気づいてしまっている。宮内君のバスケのプレーが好きなことに。今までの体育の授業でもバスケをやってきたけど、興味なんてなかったから気づけなかった。いつも時計と睨めっこしていたのだ。 「見るだけなら、あの、いいよ」 宮内君の練習姿を独占したいだなんて欲が芽生えていることには目を伏せて、誰かに注目されながらの練習なんて緊張しないのだろうかと疑問に思った。私だったら緊張する。しまくる。しまくって硬直するのが目に見えている。 宮内君は嬉しそうに少しだけ口角を上げるけど、それはたった一瞬のことだった。瞬きした時にはもういつものクールな宮内君に戻っていたのだ。残念。バスケ以外で見せる貴重な笑顔をこの目に焼き付けておきたかったのに。 雑談もほどほどにして、周りに遅れながらも英文を読み始める私たちの関係は、全くと言っていいほど会話をしなかった一昨年よりも去年よりも、確実に進展していた。ただのクラスメートから異性の友達に、と言ったところだろうか。友達と言っても私から話しかけることなんてほぼないんだけど。 スラスラと流れるような宮内君の英語を聞きながら、やっぱりこの人は完璧な男性で、私とは真逆の世界の住人なんだなと思った。そこにはどんなに頑張っても絶対に超えられない壁がある。それが現実。それが私と宮内君との格差。 上手に英語を話す宮内君の後だと、私の下手くそな英語が余計下手くそに聞こえてしまうのを堪えながら、無事にペアワークを終えた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加