君と私は雲泥の差

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3 クラスの底辺にいる私が、その頂点に君臨する宮内君と会話をしていたのがまるで夢のことのように思えた。全然弾まなかったけど、誰かとあんな風に喋ったのは初めてで、帰宅中も彼と交わした会話を反芻していた。だけどその度に、もっと普通に話せていたらと後悔の念に苛まれて、噛みまくる自分自身に嫌気がさした。どうしてスラスラと言葉を並べられないのだろう。 お風呂に入りながら、ご飯を食べながら、テレビを見ながら。何かをしながらもずっとその原因を模索していたけど、結局答えを見つけられないまま私は布団に潜り込んでいた。 もっと愛想が良くて、とても明るい性格だったら、こんなに悩むことなんてなかったのだろう。おまけに自分を誘う理由だって自然と聞けたはずで。何かの罰ゲームで私を総体に誘ったんだろうかとも思ったけど、それはあまりにも宮内君に失礼な気がした。そもそも宮内君に限ってそんなことをするとは到底思えない。多分、きっと、そうだと思う。 お前だけ誘われてないのは流石に可哀想だろ、という同情が含まれていたとしても、宮内君に総体に誘われたのは確かだ。ちゃんと耳に残っている。それは決して嘘じゃない。あと頭を軽く叩かれたのも、ニュアンスは違うけど可愛いと言われたのも、確かな感覚があるし耳の奥にこびりついていた。 あんなことを彼のことが好きな女子にしたら、その子はとても幸せな気分になるんだろうな、とぼんやりと思った。 私はドキドキというよりは、恥ずかしい気持ちの方が大きかった。最悪なことに、教室にはまだ残っていた人がいたのだから。絶対陰で何か言われている。別に宮内君を叱責するつもりはないけど、自分自身の人望と私との関係性をちゃんと弁えてほしかった。切実に。 総体を見に行くと断言したわけではないけど、そう捉えられても仕方ない言い方をしてしまったから、もうこれは行くしかないだろう。ちょっと観戦するだけだ。自分の高校を応援して、勝ったら喜んで負けたら悔しい思いをするだけ。もしかしたらその感情すら抱かないかもしれないけど。 休みの日はほとんど家に引きこもって全く外に出ないから、何か自分を変えるためのいい機会だとでも思うことにしよう。いつも見ている景色とはまた違った景色を見られるかもしれない。 もし優勝でもしたら、祝福の言葉くらいかけたいな、と恥ずかしがらずにその言葉を言う自分の姿を思い浮かべながら、私は眠りに就いた。 この日を境に、人気者の宮内君との距離が少しずつ縮まっていくのを、底辺の私は嫌でも実感させられることになるのだった。
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