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哲平の反応が早くて、遊びに来ていたメンバーは完全に出遅れた。
「すっげー! かっわいい! 俺ってさ、男でも女でもオッケーって感じ? でもやっぱり男らしいっていう方がいいな。ヨッシー、そう思わね?」
いきなり振られたヨッシーこと吉野くん。呆れたように哲平に言う。すでにみんな毒気を抜かれてからかう気分も消えている。
「お前さ……大物になるよ」
「やっぱり!? 俺もそう思う!」
「ごめんね! 私用があったの思い出した。またね」
「加奈ちゃん?」
玄関が閉まる音がして残った連中が一斉に喋り出した。
「残念だったな、哲平」
「なにが?」
一人が溜息をつく。
「脈ありだったのになぁ」
「ホントホント。せっかく加奈ちゃん、食いついてたのにさ」
「なに、なに? 食いついたって、なに?」
「お前のことさ、多分加奈ちゃん、好きだったよ」
「ほんと!? え、『好きだった』ってなに?」
「お前のいいとこはさ、終わったことねちねちと引きずらないとこだよな。また次の恋をするがよい!」
みんなの適当な慰めが徐々に分かり始める。
「ね、俺、今失恋したの?」
「そうだよ!」
みんなが揃って返事をした。
(本物じゃなかったか……『本物に出会うまで振られ慣れろ』って、母ちゃんの言葉、重みあるなぁ)
一知花は面白くない。どうやったらこの弟は反撃してくるのだろう。
(情けないんだから、もう! 男なのに大人しすぎっ!)
一知花の中でも、哲平は誤解された存在になっている。
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