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(す……っごく揉めるの覚悟してたのに)
何もかもとっくに知られていて、生温かい目で見られていたのかと思うと自分が情けない。
「……言うこと、無くなった」
正座も解く。半分不貞腐れた顔になっている。
「それよりあんた、生活は大丈夫なんだね? 独立しました、やっていけませんは通らないよ」
「そんな心配要らない」
「哲平、父ちゃん手伝いに行こうか?」
「手は足りてる」
「母ちゃんは掃除に行ってもいいけど?」
「大丈夫、自分でやれる」
今は不貞腐れるのに忙しい哲平は、二人の真意に気づいていない。
「バカね、二人ともあんたの新居に行きたいのよ」
二知花だ。
「俺の?」
「どんなところに住むのか見たいの! 私だって見たいし。招待しなさいよ、私たちを」
それは考えていなかった。
(そうか…… え!? 俺の城に招待するってわけだな?)
とたんに一家の主になったような気分になる。
「じゃ、中が整ったら改めて招待するよ。それでいい? 引っ越しは本当に手が足りてるんだ」
父も母も嬉しそうだ。
「じゃ、引っ越し祝いはその時だねぇ」
「哲平、日頃お世話になっていた人たちに挨拶は済んでるのか?」
「そりゃもう、抜かりないよ、父ちゃん。有難いよ……日野さんも磯川さんもラーメン屋のおっちゃんも……みんな引っ越し祝いくれるって言うんだ。本当にいい人たちに巡り合えたと思ってる」
「そうか。新しいところでもそうなるといいな。職場の皆さんもいい方ばかりなんだろう?」
「クセは強いけどね。仕事はすごく楽しいよ!」
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