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彦助は身構えていた。
(反抗期が遅いな…… でもそろそろだろう。その時こそ父の威厳を見せねば)
勝子も身構えていた。
(一知花も二知花も反抗期には手を焼いた! まったく二人揃ってまくしたてるわ、家出するわ。哲平は男だからね、普段大人しい子ほど反抗期は怖いって聞いてるし)
しかし哲平はそれどころじゃない。何をやるのも楽しいし、『本物』ってやつも見つけなくちゃならない。
「おっちゃん!」
「また来たのか、お前も変わってるなぁ。学校の勉強はいいのかい?」
「その辺はバッチリ! 俺、結構抜け目ないんだ」
「だろうな」
日野のおっちゃんは自動車整備士だ。あちこちと学校帰りに回る哲平だが、ここは一番のお気に入り。
「今日はもう終いなんだ」
片づけをしているおっちゃんにがっかりした顔を見せながら掃除を手伝う。
「腰が痛くてな、今から整形外科に行くんだよ」
「大変だね、おっちゃんも。年には勝てないってヤツ?」
「お前、もう来るな! 歳とはなんだ、俺はまだ47だ!」
「いい大人がそれくらいのことで怒んない方がいいよ」
「怒っても怒り甲斐がないってのは、お前みたいなヤツだな」
あっという間に怒りが鎮火してしまう。
「お前、本当に整備士になりたいのか」
「そうだよ」
「中3だろ? 他になりたいもん、無いのか?」
「ある!」
「なんだよ、あるのか」
「古本屋もいいなって思う。ラーメン屋もいいな。それから塗装工! あれは面白そうだった。磯川さんっていうんだけどさ、もう30っくらいかな、いろんなこと教えてくれる。なんたって塗ってる時が一番だね! 自分がこの壁を支配してんのかって思うとぞくぞくする」
「そうか。ぞくぞくするのか。じゃ、それになれよ」
「そうはいかないんだなぁ」
「なんで?」
結構日野はこのガキんちょと話をするのが楽しい。次は何を言い出すかと聞き入ってしまう。
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