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自席について黙って荷物を置き一通り引き出しの中身を確かめる。必要な物はすでに揃えてあるがそれにも何も言わない。
池沢チーフが声をかける。
「ジェローム、チームのメンバーを紹介するよ」
「私は三途川ありさ。このオフィスで一番穏やかよ」
みんなが吹き出す、ジェローム以外。
(その内分かるよ、三途さんの正体)
「私は堂本千枝。分かんないこと、何でも聞いてね」
「俺は宇野哲平。ここで一番賢い。気楽にやって行こうな」
「宗田花。よろしく」
ジェロームは終始無言だった。表情も変わらない。
「ジェローム、どうした?」
池沢の問いかけに、ああ という顔をした。
「よろしくお願いします」
池沢も珍しくその後が続かない。三途川はちょっと首を傾げてジェロームを見ている。花は何か考え込んでいた。
さすがに千枝がそばに行って話しかけた。
「あのね、引き出しにいろいろ揃えておいたの」
「見ました」
「もし必要な物があったら言ってね」
「その内に」
「……コピー室とか見ておく? 新人くんには最初は雑用がたくさん言いつけられるから覚えることがたくさんある」
「分かりました。後で自分で見ておきます」
とうとう千枝も黙ってしまう。
「トイレとか教えようか。4階には休憩室もあるんだ」
なんとか雰囲気を和らげたかった。
(きっと緊張してるんだ、人見知りしてるのかもしれない)
「下見しましたから結構です。休憩室は行かないので必要ないです」
「自由に休憩出来るんだぞ」
「しません」
少しずつ腹が立ってくる。
「なあ、最初だから緊張するのは分かるけどもう少し言い方ってもんがあるだろ?」
「言い方?」
「お前はここで一番下なんだぞ。もっと周りや先輩たちに頼って」
「仕事、一生懸命やります。そのために入社したんだから。問題無いでしょう?」
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