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  「千枝、泣くなって。三途さんも冗談で言ったんだからさ」 「分かってる……分かってるけど哲平さんがどんどんデスクを片付けてるのを見てたら……遠くに行っちゃうんだよね、本当に」  本当はまだ抱き合ってもいない。そういう意味では哲平は奥手だし、千枝も口ほどには大胆ではない。 「今日さ……仕事終わったら俺んとこに来ないか?」  いまだに『ほっぺにチュッ』の域を出ていない二人。花が聞けば、それこそ『はぁ?』とデカい声で言いそうだ。 「哲平さん……とこに?」 「デートは何回かしたろ? 今日は……来いよ」  十代じゃない、その意味くらい千枝だって分かる。恥じらうように下を向いて頷いた。 「よし! じゃ、残りをとっととやっちまお! デスクが片付くのなんかどうってこと無いさ。片付けんのが嫌ならウチを汚しとくから千枝の出番はたくさんあるよ」 「それは、だめ。掃除はしてあげるけどわざと汚してたらもう行かないからね」  哲平のマンションに行くのは初めてだった。 (やだ、どうしよう……ドキドキしてきた……)  エレベーターを待つ間に胸の鼓動が早くなってきた。 「あの、哲平さん!」 「なに?」  哲平も実は同じ状態だ。聞き返した声が上ずってしまった。 「えっと、何も買わないできちゃったなって。コンビニとかで」 (あ! 大事なもん買ってないっ!) 「そうだね、ごめん、買ってなかった。ありがとう、言ってくれて」  二人して道路に引き返したが、お互いに買う目的が違うことは知らない。   
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