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今度はすんなりとエレベーターに乗り、哲平は鍵を開け、千枝を招き入れることが出来た。
「えっと、いらっしゃい」
「はい、お邪魔します」
また妙な緊張が生まれそうになって、千枝は慌てて袋の中の冷えているものを冷蔵庫に入れ始めた。
「冷蔵庫、きれいに使ってるのね」
「それだけは徹底してるよ。冷蔵庫って意外と怖いって聞いたからな」
「うんうん。分かる」
袋の中身を片付けながら千枝は黒いパッケージの箱を掴んだ。
「これ、冷蔵庫?」
(なんだろう)
裏を見て表を見直して裏を見て、哲平に投げつけた。
「最低!」
「な、なんだよ」
「もう! 帰る!」
「どうして! 任せるって言ったじゃないか、『私は哲平さんの選んだものでいいわ!』って」
「そんな意味で言ったんじゃない!」
「『どれにしたの?』って興味津々だったし」
「違うから! そうじゃないから!」
「ちょ、ちょっと落ち着こう! 俺もだけど千枝、テンパり過ぎ!」
「だって!」
心の準備をしてきたつもりだったのに、よりによってコンビニの袋にビールなんかと紛れて入っていたから妙に生々しくて怖気づいてしまった。
「まず、飯食おう。で、余裕が出たら取り掛かるってことで」
「と、とりかかる、の?」
「そ! あまり気張るのはやめよう。いいよ、自然の流れで。もし今日がだめならまた考えよう」
「……うん」
ちょっとホッとした。こんなことは構えて出来ることじゃない。少なくとも千枝は女性だ。しかも一人娘で大切に育てられている。妙に現実的で、妙に恥じらうのが千枝だ。
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