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   哲平はずっと表で座っていた。隆が出てきた。 「どうだ?」 「うとうとしたり目を開けたり。そんな感じ」 「もう安心だな、親父さんが完全に覚醒するまでのんびり待てよ」 「代わりに中にそばについててやってくんないか?」 「俺じゃだめだって」 「頼む、もう我慢できないんだ」  隆はトイレに走って行った。 「だから出しとけって言ったのに」  中に入ると隆の父が一人で眠っていた。 「おじさん、隆、トイレ行ってる。デカいの出してるからちょっと待ってやって」  そばにある椅子にどかっと座った。 (なに、考えてんのかなぁ。何も考えてないか、そうだよな……)  ぽかっとその目が開いた。背筋がピンと伸びて座り直す。 「おじさん?」  うっかり声をかけたけれど、返事をされたら困ると思う。それは隆の領分だ。 「い、いぅ、いうう」 (うわっ、どうしよう!) トイレに呼びに行こうかと思ったが、その間に何かあったら と思うとそばを離れられない。 「い、いう」 『りゅう』と言っているのだと思う。ちょっと呂律(ろれつ)が回らない感じ。繰り替えすのはその名前だけ。 (隆、早く戻って来い! 親父さんがお前を呼んでるぞ!) その顔が周りをゆっくりと見回した。そばに座っている哲平を見た。 「い、ぅ、ぅ」 「おじさん、今隆が来るよ。ちょっと待っててくれよな」  それでも自分をじっと見て、『りゅう』と繰り返す。イヤな汗が流れてくる。 (まさか、俺のこと隆だと思ってないよな!?) そのまま自分を見て黙ってしまったから、身の置き所も無くひたすら隆を待ち、汗をかいていた。   
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