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   渡された資料を持ってエレベーターを待てず階段を駆け上がった。途中で背の高い男性にぶつかりそうになる。 「走るな!」 「はい、すみませんっ」  そのまま駆け上がった。下から声が響く。 「走るなっ!」 「はいっ、すみませんっ!!」  でも足が止まらなかった。先輩は『早く』と言っていた。  会場に入る寸前に息を整えた。結構これは得意だ。 「資料、3部持ってきました!」 「その一番後ろ、無い所に置いて」 「はい!」  もう結構な人数が来ているが後ろの方に座っている者が多い。資料を置くとその席に座っている穏やかそうな顔の青年が頭を下げた。 「ありがとうございます」  なんとなく気になった。顔色が優れない。 「前に座んないんですか?」 「いえ、ここで」 「具合悪い?」 「大丈夫です、お気遣いありがとうございます」 「いや、いいんだけど。俺、前の席だけど隣に来ない?」 「え? ……あの、社員さんじゃないんですか?」 「君と同期だよ」 「でも人事の人と一緒に……」 「俺、動き回ってるの好きだから」 「おい、宇野! 始まるってのにトイレに行ったバカがいる、呼んで来いっ」 「はいっ」 「時間になったらドアを閉める、中に入れなくなると言ってやれ!」 「はい!」  今度はトイレに駆けだした。その姿を呆気に取られて広岡は見ていた。   
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