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   小学4年生の2学期に通知表に追加された言葉がある。 『いつもよく気が利きます』  3学期の保護者会の後に勝子は担任に聞いてみた。 「気が利くって、どういうことですか?」 「哲平くんは何を頼んでも嫌な顔をしないし、女性の中で育ったせいでしょうか、みんなが気がつかないことまでよくやってくれるんですよ。先週は掃除用具の箒が折れたんですが、添え木をしてガムテープで留めてくれて。器用だしいい子ですね」 「はぁ……(学校でもいいように使われてるんだね!?)」 「ただ……」 「なんです?」 「時々ちょっとズレてて」 「なんかやらかしたんですか?」 「本人は良かれと思ってやったんです。だから責めるところじゃありません。元気の無い金魚を水槽から出してバンドエイドを貼ろうとして苦労してたんです」 「バンドエイドぉー!?」 「水槽に戻したんですが、すっかりぐったりしちゃって。あ、今はもう元気ですよ。殺しちゃいないです。どうしてバンドエイドを貼ろうとしたのか聞いたら、自分はいつもバンドエイドを貼るとケガが痛くなくなるからって」 (バカだねぇ!) 「すみません、そそっかしいんです。家でも落ち着きやしない」 「でもね、お母さん。哲平くんの笑顔は学校一、いいと思いますよ」  勝子には、理想の息子像がある。  普段穏やかで難しいことに明るくて、頭脳明晰。誰もに尊敬されてそれでも謙虚。しかし、いざとなると凛とした顔で問題を解決していく。 『いい息子さん! 羨ましいわ! きっとお母さんの育て方が良かったのね』  そう言われる自分。なのに。  家に帰ると、言いつけられた雑用をこなすために元気に家の中を走り回る哲平。 (まったく。女の言いなりじゃないか。自己主張ってもんがない。どうにかなんないのかね、この引っ込み思案は)  こうやって母に誤解されたまま、哲平は元気よく育っていく。   
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