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「振られたーー!」
入ってくるなりドアも閉めずに喚いて泣く。
「また!? あんた進歩無いわねぇ」
「男が振られたくらいで泣くんじゃない! 本物の相手に巡り会えるまで、振られ慣れときな!」
姉の罵声と母の鶴の一声で黙る。哲平7歳、すでに多感なお年頃。
宇野哲平、宇野家長男。4人姉妹に挟まれた3番目。
父:宇野彦介 母:勝子
双子の姉:一知花、二知花11歳。
一つ下の妹:莉々6歳
二つ下の妹:茉莉5歳。
さらに、すぐ近所に住む祖母:巴70歳と伯母:竜子44歳が夕食時には二人で家に来る。
女性7人に囲まれた父と息子2人の男。
父の口癖は『男子たる者!』と、『あ、すまん』と、『いつかきっと』。強気に出ても尻すぼみにならざるを得ない境遇で、細く細く立派に戦っている。少なくとも哲平に対しては父として断固たる態度を取っている。
「哲平、振られるたびに男が上がるって言うぞ」
「上がんなくていいから好きな子と手を繋ぎたい」
「もっと高い志を持て」
「どうして母ちゃんと出会った時にそこで手を打ったの? 『こころざし』っていうのが低かったの?」
「お前にだっていつかきっと分かる時が来る」
「『いつかきっと』って、いっつも父ちゃん言うよね。それっていつ?」
「うるさいわね、外行ってやってちょうだい!」
非情な母の声が入る。
「父ちゃん、なんで黙っちまうんだよ」
「……哲平。男は黙って我慢だ」
「俺、男やめたい」
世の中、理不尽に出来ていると思う。
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