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    中学3年生。風薫る5月。親友の坂本(りゅう)と一緒に図書室の横にある花壇のそばで、哲平はドキドキしながら立っていた。 「大丈夫だって! 頑張れよ、哲平。お前はいいヤツだからさ、千夏といいカップルになるって」 「そうかな……」 「そうだよ。いいなぁ。俺さ、千夏にマジ惚れしてたんだぜ。でもお前に気があるなんてさ。このヤロー。なんで俺、お前の付き添いやってんだろうな」 「千夏ちゃんが好きだったの? だってお前モテるじゃん! 何も俺の好きな子を本気で好きにならなくたって……」 「しょうがない。気にするな。や……っとお前の恋が叶うんだからさ、潔く俺は諦める」 「お前って……俺にはもったいないほどの親友だよ」  本田千夏は髪の長い色白の女子。隆と同じクラスの子だった。かなり男子から人気がある。哲平も2年の終わりに一目惚れした。それでも高根の花。どうせまた片思いと達観していた。それが、クラス替えで隆と共に同じクラスになってすっかり浮かれていた。  雨の強い1学期の初日。帰りの下駄箱で折れた傘をどうしようと困っている千夏を見た。 「あの、それ直そうか?」  振り返った大きな目が見開く。 「哲平くん……だよね?」 「え、俺のこと知ってんの?」 「坂本くんがよく話してたから。親友だって」 「宇野哲平、男の中の男です! よろしく!」  差し出した手を、千夏は吹き出しながら握ってくれた。その後は傘の骨を持っていたガムテープで補強しながら喋った。 「哲平くんって楽しい人だね。坂本くんの言う通りだった」 (隆! ありがとー! 俺を売り込んでくれてたんだな) 「はい、一時しのぎだけど家に着くまでは持つと思うよ」 「ありがとう! ね、どうしてガムテープ持ち歩いてるの?」  不思議そうな顔に笑って答える。哲平の笑顔は破壊的だ。どんな相手の警戒心でもいとも簡単に崩していく。 「これ、いろんな場面で役に立つんだよ」    
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