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   哲平は自分の持っている知識を総動員して考えた。だがどんなに好きな世界だろうが、専門に勉強してこようがそれが通じるわけがない。 『理解しよう』 『上手く製品を売り込もう』  最初に捨てたのはそれだった。 「チーフ、欲しい資料があるんですが」 「なに?」  面白そうに三途川が聞く。 「あの、顧客の資料が欲しいです。自分が説明する相手がどういう人たちか」 「それを知ってどうするの?」 「俺には圧倒的に知識と時間が無いです。全部やろうなんて無理です」 「早速泣き言?」 「違いますよ、的を絞りたいんです」 「的? そう! ちょっと待ってて」  三途川が立ち上がって課長席に行った。課長が手を止めて三途川の話を聞いている。立ち上がると窓際のオープン席に移動した。三途川が哲平を見て(おいで)をしている。 「なんですか?」 「お前の言う『的を絞る』という話を聞きたい」  課長は真剣な顔だ。 「つまり……」  三途川の顔を見る。 「いいの。思った通りに話して」 「つまり、相手を知ればどんなことを伝えればいいか分かると思います。俺はそこだけを考えればいい。専門的なことを俺に任されても本当に無理です。だからこそ課長は準備するって言いましたよね。正直言って今回のはやっつけ仕事でしょう? だから取り敢えずやんなきゃなんないのは製品の売りじゃない」  三途川が眉を上げた。課長はテーブルの上で指を組み合わせる。 「製品を売らずにどうする?」 「俺たちを買ってもらいます。俺に出来るのはそれだと思います」   
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