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 思い返すといろいろあった。瓢箪から駒の入社。呆気ない恋の終わり。震えるほど興奮した初のプレゼン。あの顧客は今やR&Dの安定客だ。客は話が開発部に移るのを嫌がり、最後までR&Dが対応した。  三途川と池沢の劇的なチーフ交代(この真実は誰も知らない)。  お喋り浜田、陽気な和田の入社。異動してきたしっかり中山。さらに次の年、井上というR&D始まって以来の女性らしい女性の入社(この感想を正直に言った時、哲平の頭には嵐のように拳が落ちた。一番出来のいい拳は、もちろん三途川からのものである)。そしてちゃっかりしているような不思議女子、堂本千枝。  そこまでの道のりに、涙無くして語れないものがある(泣くのはもちろん本人だけだ)。  カフェショップで見かけたバイトの涼子ちゃんに入れ込んで毎朝毎昼毎終業後コーヒーを飲みに通った。もちろんシフトやら休みやらで会えない日の方が数多い。オフィスで笑われながらも哲平は頑張った。  哲平が怠ったのは、行動だ。言葉さえかけていなかった。デートを夢見るだけで幸せだった哲平はそれを現実にしなかった。現実にしたのは、なんと人事の野坂先輩だった。 『いいんだ。野坂さんなら彼女を幸せにするよ』  涙目で遠くから見ていた野坂と涼子ちゃんのつき合いはたった2ヶ月のあっさりしたもので、彼女がバイトを辞めると同時に終わった。  みんなと飲みに行った時に料理を運んできてくれた『竹割りちゃん』。竹を割ったような性格でそう呼ばれていた彼女は、最後まで名前を明かしてくれなかった。  営業にいた『月野光(つきのひかり)ちゃん』。はっきり言って惚れたのは名前。彼女が『倉木光(くらきひかり)』となった時に哲平の目は覚めた。  そして、入社したての井上陽子にクラっときた哲平は、荷物は持つし新人として用を言いつけられるのをとことん手伝った。 「宇野先輩っ! 私だって女の子なんですけどね!」 「千枝ちゃんは強いから。大丈夫大丈夫」  それが3度続いて千枝から尻を蹴り上げられた。 「お前さ! 先輩の尻を蹴るか? 普通!」 「普通が通用するような人に見えませんから」  いつの間にか会話が増えていく。ぽんぽん交わされる口喧嘩に周りは生温かい目を向ける。  そして劇的な出会い。宗田花。捻くれもんの新入社員。   
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