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   「花……俺はだめだな。そういうところに目が行ってなかった。この頃の俺は良くない。すごく良くない。人の気持ちを大事にすることを忘れてる」  花の驚いたような顔に言葉を続けた。 「このままじゃ俺はもっとダメなヤツになっちまう。このゴールデンウィーク中、反省するよ」 「駅からずい分歩くんだっけ」  独り言を言いながらデカいスポーツバッグを持ち直した。山の中は涼やかだ。足元も軽やかに歩いていく。 [目的のある行動は自らを磨く] (名言だよなぁ。誰の格言だっけ。あ、俺だ) 一度この言葉を人前で言ってみたいものだ。  ネットであちこち探して電話してようやくこの寺を見つけた。 『朝から晩まで修行』『楽しむためにあるのではない』『テレビも無し、電波も無し』『無用のお喋り禁止』  そして[興味本位で上山すると挫折します] (これだ!) そう思った。  寺に着くと、その粛然としたたたずまいに目を奪われた。見事な風格だ。 「お世話になります。よろしくお願いします」  男性ばかりで泊まる部屋に案内されて荷物を整理した。時間になって別の和室に移動する。8人の男女がそこに座っていた。  寺での規則を説明された。坐禅、合掌、おじぎ、食事、廊下の歩き方、トイレでの作法。食事に至っては指の使い方、肘の曲げ方まで厳格に教えられる。  食事中も座禅をしながらだから、布団に入った時には疲れ果ててあっという間に眠ってしまった。  大きな鐘の音に飛び起きれば、外は真っ暗。時計を見ると3時半。起床の時間だ。布団を畳み始めたが何人かが起き上がれない。 「ほら、起きる時間だぞ」  隣りの男を揺り動かしたが、目が開かない。  扉が開いて大声が響き渡った。 「いつまで寝ているのですか! あなたたちは一体ここへ何をしに来たのですか!! 寝に来たのならさっさと出て行きなさい!!」  そして隣の男に手をかけたままの哲平はじろりと睨まれた。 「何をしていますか? 人の世話を出来るほどにあなたは自分の始末ができるのですか?」  ビリビリと腹に響くような声だった。   
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