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横浜へ行く日が近づいてきた。同時に田中が営業に行くのだが、田中の代わりに入る相田という男が挨拶に来た。哲平は自分の残務処理で忙しい。チラッと見て(調子良さそうなヤツだな)と思ったが、構っている暇など無い。
脇でジェロームと相田の挨拶が聞こえたが、顔も上げなかった。
「俺、宗田花と言います。よろしく」
一瞬手が止まる。
(どうした、花?)
声が尖っている。
(『よろしく』するって声じゃないな)
それくらいは分かる。声が冷たい。後はジェロームと二人でひそひそ話しているが、今は余裕が無さ過ぎた。
やっとひと段落。お喋りが始まる。さっきのことを花に聞こうと思ったが、その前に知りたいことがあった。
「俺の後任ってどうなるんすか?」
「哲平、お前さ、まだここに席あるんだっていう自覚消えたな?」
チーフの言葉に、(ヤバい!)と思った。確かに自覚が消えかかっていたからだ。
哲平のせいで残業が増えるとメンバーの愚痴が始まった。チーフは焼売を送って来いと言う。
「哲平ちゃん。私土曜空いてるから横浜に行ってもいいけど。ご馳走、してくれるでしょ?」
「だめです、三途さん!」
「千枝ちゃんに奢ってって言わないわよ」
「週末は一緒に過ごすからだめって言ってるんです!」
(うわぁ!!)
やらかした千枝を責めるわけには行かない。本気で邪魔されたくないという意思表示に哲平は自分の顔がみるみる赤くなるのを感じた。
「哲平さん……インドに行くって決めてやっと告白してくれて。そんなの酷いです! ちょっとしか一緒にいられない……」
「おい、泣かすな! 哲平、ちょっと4階に連れてけ」
何も言えず、チーフとみんなに頭を下げて千枝と4階に行った。
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