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    高校1年の終わり。隆は北海道に行くと言いに来た。学校が違うこともあり、千夏との関係はどうやら自然消滅してしまったらしい。 「そうか、行っちまうのか」  隆がずっと悩んでいたのは知っていた。父のリハビリは軌道に乗るのが遅く、やっと座ってスプーンを持って食べるようになった。喋ることはできるが、中身がかなりズレる。『お茶、くれ』そう言えるのに、お茶を渡すと違うと言う。実はお茶ではなくてメガネだったり。物の名前を正しく言えないから意思の疎通が難しい。けれど隆に当たらないように一生懸命なのが見て分かる。  哲平の名前はなかなか言えなかった。『てっぺい』の『ぺ』が難しいのだという。 「おじさん、『てつ』でいいよ」  それからは『てつ』になったが、それさえもたまにしか言えない。違う名前になる時もある。 「叔母さんが北海道に来いって言ってくれたんだ。もう家も売ることに決めたし、それなりにまとまったお金が入るだろうから父さんをちゃんとした施設に入れるんだよ。俺は向こうで勉強を頑張る」 「決めたんだな」 「決めた。お前は……どう思う?」 「お前の出した結論だろ? ならいいと思う」  ちょっと間が空いた。 「お前、なんで部活やんないの?」  隆は前からそれが不思議だった。 「なんだよ、急に」 「……心配なんだ、お前のこと。余計なお世話かもしれないけどこの先どうするつもりかさ。なんでもやりたい派なのに何もやらないし」 「だからだよ。あっちこっちに入ってるような、入ってないような」 「助っ人ってヤツ?」 「そういうカッコいいもんじゃない、お邪魔するって感じ」 「なんだ、それ?」 「やりたいもん、探してんだよ」 「一年近くそうやってるってことは見つかんないってことか」 「そうなんだよなぁ。4月になったらコンピューター関係の部活ができるらしいんだ。それが気になってるけど」   
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