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「ホントに俺、行っていいんすか? ご両親いるんでしょ?」
「いるわよ、二人」
「あの、ご兄弟は」
「兄弟分ならいるけど」
(兄弟分?)
イマイチ家族構成が曖昧で、それ以上三途川は説明しようとしない。
「それよりあんた、恋愛はどうなってんの? あの失恋のまま?」
「まだゴールデンウィーク前ですよ」
「じゃ、独りぼっちのゴールデンウィークってこと?」
「忙しいんです、連休中は。会社の近くに引っ越す予定で」
「そうなの? 社員寮とか聞いた?」
「聞きました、人事課の先輩に。無いって言ってました」
人事課の野坂だ。あれ以来やり取りをしている。
「そっか。別にウチの実家に居候してもいいんだけど。でも車通勤じゃなきゃ無理ね」
「下宿屋さんでもしてるんですか?」
「んんー、まぁ似たようなもんかな」
引っ越しは本気だ。もう物件も探して契約した。昔の引っ越し屋のバイト仲間にも手伝いを頼んである。荷造りも少しずつしてあって、押し入れには段ポールが幾つか。
(問題は……父ちゃんと母ちゃんだよな。いつ言おうか……)
今日は4月20日、金曜日。連休までもう幾らも無い。
(今日はやめとこ。土日でドッカンドッカンやられんのは嫌だ)
莉々にだけ話してある。
『まさか私に手伝わせる気で言ってないよね?』
『お前の手なんか要らないよ。たださぁ、心配なんだよ、俺いなくっても平気かなって』
『いいんじゃないの? この家はみんな兄ちゃんに依存しすぎ! 兄ちゃんが甘やかすからいけないんだけど、そろそろ買い物も町会のイベントの手伝いもみんなにやらせないと』
莉々は誰よりも話が早い。だから楽なのだ。
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