傘は幸せのかたち

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傘という漢字の中には、どうして四人も【人】が入っているのだろう? 誰しも一度はそんな疑問を持ったことがあるのではないだろうか。 傘は普通、一人で差すものだし、相合傘をしても二人が限度だ。三人や四人なんてありえない。 そう僕は思っていた。 ――折り畳み忘れたでしょ 昼休み。メッセージアプリを開くと、妻からそんなメッセージが届いていてハッとした。 忘れた? そういえば傘を入れた記憶がない。 朝のニュース番組の気象情報を見た時に今夜は雨の予想だったから、妻が折り畳み傘を靴箱の上に出しておいてくれたのに。 ビジネスバッグの中を探しても、やはり傘は入っていなかった。 ――駅まで迎えに行く? 既読が付いたことに気付いたのか、僕が返信する前に妻からまたメッセージが届く。 迎えに来てもらいたいのはやまやまだが、それを妻に頼むことは出来ない。 実は結婚前、今日と同じように折り畳み傘を忘れた日、同棲中だった彼女が駅の改札まで迎えに来てくれたことがあった。 その時、僕の浮気相手だった女性に平手打ちをされて、彼女に浮気がバレたという苦い思い出がある。 妻は僕を許してくれたが、あんな辛い出来事を彼女に思い出してほしくはない。 ――いいよ。ビニール傘を買うから そう送ったのに、妻からの返信を見た僕は申し訳なさで胸がいっぱいになった。 ――もったいないから迎えに行くね いろいろ困難を乗り越えて結ばれた僕らだけれど、あの時と同じシチュエーションはまだ早すぎる気がする。 やっぱり何か理由を付けて断ろうと考えていたら、そんな僕の考えを見破ったかのようにスマホがまたメッセージを表示した。 ――早く話したいこともあるし 話したいこと? 何だろう。 早く話したいならメッセージでもいいし、お互い終業後なら電話でもいいはずだ。 ――何? 仕事終わったら電話する? ――ううん。直接顔見て話したいから 何だろう。ますますわからなくなる。 そういえば最近、妻は何かを言いかけて止めることが多かった。 何か悩んでいるような困っているような、そんな表情だったのに、何でもないと言われたら無理には訊けなかった。 ちゃんと踏み込んで訊けば良かった。職場で何か嫌なことでもあるのだろうか。
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