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「すっこんでろ、アマ!」
「あんたこそ引っ込んでな、この唐変木!」
「ああ、またやってるよ」
「三途川組と新庄組が組めばデカい組織になるってのに。親父はなんで放っとくんだ? ちっとはあの二人をなんとかすりゃいいんだ」
周りがヤキモキする中、三途川登治は泰然としていた。
「一緒になるもんなら余計なことしないのが一番だ。ならなきゃ縁が無かった。それだけだ」
「しかし、親父! 先のことを考えねぇと!」
「おい! 俺がいいと言っている。口出しは要らねぇ!」
三途川登治。デカいヤクザ組織の組長だ。まだどこの傘下にも属していない。デカいとは言っても、そこは支店を幾つも持つようなグループ派閥組織じゃない。取り込まれるのは時間の問題とされていたのは先々代まで。
しかし敵にするなら覚悟がいるほどの組織ではある。それが先代から意識が変わり始め、今の組長になってご法度が増えた。
「ヤクに手を出す事は成らず。人の売買は成らず」
ヤクはもちろん、内臓の売買、人身売買に一切手を出さない。見つかれば制裁が待っている。
見方を変えれば、三途川組は過去にそういうことをして来たということだ。汚いやり口はもちろん、力を蓄えるために貪欲なヤクザ集団だった。
登治の代で完全にその手の連中は一掃してしまった。ヤクザに『クリーン』は無い。だが登治は任侠を求めた。『外道』を許さず、時代に逆らった。
「あの親父についていくか?」
「冗談だろ! 今時なにが任侠だ。時代遅れもいいとこだ」
反発が起きる。美味しい思いをしたくてヤクザになった者が多い。だが古い考えを持つ者も同じく多い。組織はまだガタガタと揺れていた。
そんな中で新庄組の娘、千津子と三途川組の跡取り勝蔵の仲に期待を持つ者が増え始めていた。
『跡目には勢いがある。情もある。三途川組は益々盛んになる』
だが肝心の二人は仲がいいのか悪いのか、ちょっと微妙なところにあった。
「坊ちゃん」
「止めろ、俺はもう18だ」
「では、若」
「それもイヤだ」
世話役の五十嵐卓巳はヤンチャな跡取りに困っていた。とにかく大変な跡取りだ。度胸があって頭もいい。しかし何せ跡取りの自覚が無い。命を狙われることも多いのに。
「じゃ、跡目。これ以上は譲れません」
「……それならいい。で、なんだ?」
「そろそろ自覚してください、親父は何も言いませんが俺ら下のもんは心配でなりません。一人は危険です。跡目の顔は売れている。いつどこで狙われるか分かりません」
「死ぬもんは死ぬ。そうだろ。その時と場所は選べねぇよ」
「跡目!」
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