286人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、無茶するな! 火事なんか」
「発煙筒ですよ。これ」
作業服の中からびしょ濡れの発煙筒を2本取り出した。脇では春香と連れて行った若いのが咳き込んでいる。
「ちゃんとこうやって回収して来たし。白と黒を混ぜたから結構本物っぽかったでしょ」
「それから足がつくってことは無いんだろうな」
「ないですよ、バイトやってた時にくすねたヤツだから」
「どんなバイトだよ」
「撮影現場」
二人の話の間に春香は割って入った。
「なんなんですか! あなたたち、誰なんですか!?」
「あんた、気が強いね」
イチが笑う。
「大丈夫そうで良かった。洋一から頼まれたんだ、あんたを助けてくれって」
「洋一……あの子、無事なんですか!?」
「無事って言っていいかどうか…… ウチで預かってるよ。とにかく連れてくから。ただちょっと遠回りする。変なのを連れてくわけにはいかないからな」
イチはあちこちぐるぐる回って伴野たち2人を駅の近くで下ろした。金を2万渡す。
「なんか食って帰れ。途中で電車乗り換えろよ。伴野、良かったら俺の下に来ないか? 考えといてくれ」
イチはそのままある自動車工場に向かった。
「イチさんじゃないか」
「悪い、いつもの」
「ああ、用意してあるよ」
別の車に乗り換える。
「塗装代、組に請求しといてくれ」
「今回はサービスだ。親父っさんによろしく伝えてくんないか?」
イチはにやっと笑った。
「分かったよ、よく伝えておく。資金繰りで困ったら言ってくれ」
「恩に着るよ」
最初のコメントを投稿しよう!